数値だけが全てじゃないようです
気を取り直して、ネメアはステータスを確認することにした。
「クレタさん、俺、ステータスを確認してみます」
「分かったわ」
ネメアがズボンのポケットからステータスカードを出すと、クレタは横から顔を出して一緒に確認した。
『ネメア・レオ』
攻撃力 70/100
防御力 72/100
素早さ 75/100
武器を扱う技術 70/100
魔力 68/100
身体能力 66/100
それぞれの能力値を上から順に目で追っていったネメアは、がっくりと肩を落とした。
「うーん、今回はあんまり成長してませんね……火口湖の精霊さんとの戦い、滅茶苦茶キツかったから、もう少しステータスが上がってると思ったんですが」
落ち込む彼に、クレタは励ましの言葉を送った。
「成長してないなんて事はないわ。回復魔法を遠距離から使えるようになるなんて、大きな進歩じゃない。これだけでも戦略の幅が広がるもの。それに、私だって遠距離からの回復魔法は使えないわ」
「えっ?」
彼女の告白に、彼はポカンと口を開けた。魔力のステータスが100もある彼女なら、当然のように使えるだろうと思っていたのだ。そして、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「俺、ステータスではまだまだクレタさんに遠く及びませんけど、回復魔法の腕前なら、俺の方が上になりましたね」
「そうね。ステータスカードの数値だけじゃ、量れないこともあるわ。これからは、ステータス以外の側面も伸ばしていきましょう。
手始めに、立ったまま眠る練習をしましょうか。薬草採取に行った時以降、一度も練習してなかったし」
クレタがそう提案すると、ネメアは顔をひきつらせた。
「げっ、その練習のこと、忘れてなかったんですね。立ち寝って、背中がそわそわして寝付きにくいんですよね」
「だったら、私に寄りかかる?」
上目遣いで色っぽく誘われ、ネメアはドキリと胸を跳ねさせた。だが、すぐに興奮は冷めた。
「どうせ、俺のことをからかっているだけなんでしょう? もう引っ掛かりませんよ」
「あら、バレちゃったわ。つまんないの。でも、背中合わせで寝れば、崩れ落ちなくて良いと思ったんだけど」
それを聞いて、冷まされたネメアの興奮は、再び燃え上がった。
「つ、つまり、クレタさんに密着して良いってことですか?」
「そうよ」
「じゃあ、その、背中合わせで立ち寝したいです」
頬を赤らめながら、遠慮がちにネメアは頼んだ。クレタはまんまと自分の話に乗ってきた彼が面白くて、ププッと心の中でほくそ笑んだ。
それから二人は背中合わせで立ち寝をし、毛布代わりに外套にくるまって一夜を越した。ネメアは、背中から伝わってくるクレタの優しい体温と、火口湖の精霊と戦ったことによる疲労で、案外ぐっすりと眠ることができた。
朝になると、朝食を取ってから下山し、冒険者ギルドのある町まで戻った。クレタは、次の修行の内容は特に思い付いていないため、ギルドで受けられる依頼を確認してから考えると言った。
ギルドに着くと、見覚えのある青年が受け付けに立っていた。ゴーレム討伐の時、クレタが交渉した卑しい係員だ。彼は二人を見るなり、「あっ!」と声を上げた。
「貴方達は、Aランクパーティーじゃないのにゴーレムを倒した、強いお二方じゃないですか! ちょっとこちらへ来てくださいよ。お勧めしたい依頼があるんです」
卑しい係員は手招きをした。ネメアは彼を睨み付けて、「絶対ろくでもない話ですよ、やめましょうクレタさん」と言った。しかしクレタは、「いいじゃない、話だけでも聞いてあげましょ」と興味深そうに目を細めた。
ネメアは、クレタさんに振り回されてばっかりだなぁと溜め息を吐きつつ、一度その気になった彼女を止めることはできないので、諦めて受け付けまで足を運んだ。




