表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/180

気持ちが分かりません

 視界が暗くなったかと思いきや、すぐさま目が覚めたことに困惑し、彼女は首を傾げる。だが、それが地面に伏しているネメアのおかげだと気がついて、歓喜の声を上げた。


「ネメアちゃん、遠距離から回復魔法を打てるようになったわ!!」


 肩で息をしているネメアは、それを聞いてハッと顔を上げた。火口湖の精霊十体は、指をパチンとならして、火山ガスの発生を止める。


「よくやったわねぇ、ネメアちゃん。おめでとう」


 火口湖の精霊はそういうと、十体の分身が一ヶ所に集まって合体し、元の大きさに戻った。そして、倒れているネメアの脇に腕を通して立ち上がらせると、ギュッと抱き締めた。できたてのスープのような温かさが、彼を包み込む。回復魔法をかけてくれているようだ。


 彼は、自分を抱いている彼女の大きな胸が、ぐいぐいと押し当てられていることに顔を赤くした。戦いで溜まった疲労が溶けていくようだ。しかし、顔を少しに横に向けると、クレタと目が合って気まずくなった。なんだか、浮気をしている気分だ。


 名残惜しいが、このままの状態をクレタさんに見せ続ける訳にはいかない。そう思い、呼吸が整うぐらいまで回復すると、ネメアは火口湖の精霊の体を押しやって、腕の中から脱した。


「火口湖の精霊さん、ありがとうございました。もう大丈夫です」


「あら~、ほんとに? 遠慮しなくてもいいのよぉ」


「本当に大丈夫です!」


 額に汗をかきながら、ネメアは言い張った。その様子に彼の心中を察して、精霊はクスリと笑う。


「健気ね、ネメアちゃん。本当は、クレタちゃんとただの師弟関係じゃないんじゃないのかしら」


「そうだったら嬉しいんですが」


 ネメアは苦笑した。可愛がられているとはいえ、クレタから恋愛感情を向けられているのかは分からない。からかわれているだけかもしれない。自信を持って、ただの師弟関係ではないと、断言できなかった。


 煮え切らない返答をした彼に対し、精霊は「ふーん」と興味深そうに相槌を打った。だが、それ以上は追及せず、今度はクレタへ話しかけに行った。


「クレタちゃんの要望通り、ネメアちゃんの回復魔法を鍛えてあげたけど、これで満足かしら?」


「えぇ、大満足よ! ありがとう、火口湖の精霊さん」


「良かったわぁ。それじゃあ私は、また眠りにつくわ。ご用があれば、また呼んでちょうだいねぇ」


 優しい笑みを浮かべ、火口湖の精霊は火口湖の方に吸い込まれていき、姿を消した。クレタは再度感謝を伝えると、ネメアの元に向かった。


「ネメアちゃん、遠距離からの回復魔法を使えるようになって、おめでとう。それから、私を助けてくれてありがとう」


 彼女はネメアの右手を両手で握りしめた。そしてやんわりと目を閉じると、頬にキスをした。唇の柔らかい感触を覚えた彼は、飛び上がって仰天する。


「ふぇっ!? えぇぇぇぇぇ!?」


「フフッ、これはお礼よ」


 目元をほんのりと薔薇色に染めながら、彼女は微笑んだ。彼は頭が真っ白になって、しばらく口をパクパクさせていたが、意識を取り戻すと深く頭を下げた。


「こ、こちらこそ、ありがとうございます!!!」


 クレタさんが俺を構うのはからかっているだけ、というネメアの疑念は吹き飛んだ。これはもう、脈ありと言っても良いのではないだろうか?


 しかし、柔らかい表情を浮かべていたクレタは、次の瞬間には普通の顔に戻っていた。先ほどまで、乙女の顔をしていたのに。


 そもそも頬へのキスは、家族間や友人同士なら、挨拶として行う人もいる。クレタさんはやけに積極的だから、そもそものパーソナルスペースが狭いのかもしれない。やはり彼女の気持ちが分からないなぁと、ネメアは首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ