余裕そうですね
これでは、攻撃を仕掛けるどころか、避けることすらままならない。回復か攻撃、どちらか一方に集中するしかないだろう。ネメアは、火傷を負った頬を右手で覆いながら、回復魔法の呪文を頭の中で唱えた。
火傷と息苦しさが和らいでくる。回復している間も、火口湖の精霊による熱湯攻撃は止まなかったが、火傷を負ってもすぐに回復できるため、問題なかった。
肺の痛みが解消されると、冷静な判断ができるようになり、呪文の詠唱に集中しながら、多少は行動できるようになった。飛ばされる熱湯を、タイミングを見極めて殴り付け、氷漬けにする。それを繰り返しながら、一歩、また一歩と、火口湖の精霊と距離を詰めた。
彼が近づいてきていることに気づいた火口湖の精霊は、感心したように笑みを浮かべた。
「へぇ。回復魔法を使いつつ、攻撃を防いで、なおかつ前進できるなんて、ネメアちゃんは器用なのねぇ。クレタちゃんは、先にいっぱい攻撃を仕掛けて、苦しくなったら回復するっていう、無茶苦茶な戦い方をしてたのに」
いきなり自分の話を持ち出されたクレタは、離れた所から文句を飛ばした。
「ちょっと! 今私の話は関係ないでしょう? 恥ずかしいからやめてちょうだい!」
「フフフ、ごめんなさいねぇ。ちょっと、懐かしくなっちゃって」
クレタの修行に付き合っていた頃の事を懐かしがり、無駄話をするほど、火口湖の精霊は余裕があるようだ。ネメアはそれが、自分に対して舐めた態度を取られているように感じて、ついカッときた。
クレタとお喋りしている間に、火口湖の精霊に大きな隙ができたので、ネメアは彼女に向かって駆けていき、右腕に殴りかかった。しかし、彼女がひょいっと横に逸れたので、攻撃は当たらなかった。
「惜しい、あとちょっとだったわね」
目を糸のように細め、低い声でそう言うと、火口湖の精霊はネメアのみぞおちに蹴りを入れた。魔法以外の攻撃を仕掛けられるとは思わなかったため、完全に油断していた彼は、魔法の詠唱が途切れ、その場にうずくまった。
腹当を着けていたので、蹴りによる痛みは弱かったものの、火山ガスを吸ってしまい、思い切りむせ返った。慌てて回復魔法の呪文を唱えようとしたが、さらに背中に足を振り下ろされ、地面に伏してしまう。
まともに息を吸えず、回復しそこなった彼は、視界に星が散って気絶しそうになった。それでもなんとか堪えて、頭の中で回復魔法の呪文を唱えつつ、火口湖の精霊の足を片手で掴んだ。
掴んだ足に向かって、もう片方の手に拳をつくり、思い切りぶつける。今度の攻撃は避けられず、火口湖の精霊の右足は凍りついた。対処が遅れた彼女はたじろぐ。その間に、もう片方の足も殴り、動きを止めることに成功した。
立ち上がり、熱湯を出す魔法の呪文を詠唱できないよう、彼は顔面に拳を振るった。火口湖の精霊の顔面が凍りつく。何も抵抗できない状態にすると、とどめに腹へ強く拳をいれた。




