イモ臭くないです!
火口湖の精霊は柔らかい笑みを浮かべながら、クレタに歩み寄った。
「あらあらクレタちゃん、久しぶり~。私に修行のお手伝いをしてほしいのねぇ。今日は何をするの? 熱湯に耐える特訓? それとも、火山ガスに耐える特訓? それか、火山を噴火させて、火砕流から逃げる特訓?」
「火山ガスに耐える特訓でお願い。それから、貴方の修行を受けるのは、私じゃなくてこの子よ」
クレタは、隣に立っているネメアの腰に手を回し、前に押し出した。彼を見た火口湖の精霊は、「まぁ!」とすっとんきょうな声を上げ、口元に手を当てた。
「クレタちゃん、恋人ができたの!? 随分とイモ臭い男ねぇ」
火口湖の精霊にクレタの恋人と間違えられたネメアは、ドキリとして顔を赤くした。だが、そのすぐ後にイモ臭いと罵倒され、顔を歪めた。
「俺はイモ臭くなんかないです!! それに、俺はクレタさんの恋人じゃなくて、弟子ですよ!!」
ネメアが抗議すると、火口湖の精霊は自分の頭をコツンと叩いて、ちょこっと舌を出した。
「あらあらそうだったの。私、早とちりしちゃったわ。お弟子さん、名前はなんて言うの?」
「ネメアです」
「ネメアちゃんねぇ。それじゃあさっそく、特訓を始めましょう。私は火山ガスを発生させるから、それに耐えつつ、戦ってね。さあ、武器を用意して」
優しい桃色をした火口湖の精霊の瞳が、全てを焼き尽くす赤色に変わった。ネメアは鋭い緊張感を抱き、ブルリと肩を震わせる。アイテムボックスを召喚し、彼は殴ったものを凍りつかせるグローブを取り出した。
巨木の精霊と戦った時は、切り口を発火させる短剣を使ったが、今回は火口湖の精霊なので、炎は水で消されてしまうだろうと思い、グローブにしたのだ。
アイテムボックスを四つ葉のペンダントの中に封印し、ネメアはグローブをはめた。それから羽織っていた外套をクレタに預けた。戦いの準備が整った。クレタは光の球をその場に置いて、ネメア達から離れる。
火口湖の精霊が短く呪文を唱えた。戦いの場に火山ガスが発生し、卵の腐ったような臭いが充満する。ネメアはゴホゴホと大きく咳き込んだが、すかさず頭の中で回復魔法の呪文を唱え、苦しさを和らげた。
このまま呪文を唱え続けなければ、最悪の場合死んでしまうため、ネメアは呪文の詠唱に集中した。火口湖の精霊に攻撃しにいきたいが、それどころではない。
しかし、火口湖の精霊はそんな彼の隙を狙って攻撃を仕掛けてきた。手の平を彼の方に向け、熱湯を発射する。攻撃されたことに気がついた彼は、熱湯を殴り付けて氷漬けにし、攻撃を防いだが、呪文の詠唱を途切れさせてしまった。
鼻から火山ガスを吸ってしまい、ネメアはえずく。吐き気が込み上げて目に涙が浮かんだ。そんな彼のことなどお構い無く、火口湖の精霊は次々と熱湯を発射してくる。
肺が苦しくて堪らないのを我慢しながら、ネメアは体をひねったり飛び上がったりして、何とか熱湯を避けた。しかし、毒に蝕まれた状態で全ての攻撃を避けることはできず、右頬に熱湯がかかってしまう。ジュワッと鈍い痛みが広がって、彼は呻き声を上げた。




