山を登ります
次の日、ネメアとクレタは早朝から馬車に乗り、二時間かけて火山のある町へ移動した。
火山の麓まで行くと、二人は靴を登山用のものに履き替え、獣の皮でできた防寒用の外套を羽織る。ネメアは、目の前にそびえ立つ火山を見上げた。
火山は、青々とした木々が生い茂っており、内側で煮えたぎるマグマの熱さが鳴りを潜めている。登山道らしきものは見当たらず、ひたすらに厳しい斜面を登っていかなければ、頂上までたどり着けないようだ。
「クレタさん、この山、本当に登れるんですか?」
山の険しさを前に、こんなところに踏み入るのかと冷や汗をかきながら、ネメアはクレタに尋ねた。
「登れないことはないわよ。足腰が鍛えられていいじゃない」
返答すると、クレタはさっそく山の中に足を踏み入れ、軽快な足取りで道なき道を進み始めた。彼女がどんどん上へ行ってしまうのを、ネメアは呆気に取られて見ていたが、「付いてこないと迷子になるわよ」と声をかけられたため、自分も山の中に入っていった。
木の根がボコボコと浮き上がっていたり、小石がゴロゴロと転がっていたりして、大変歩きにくい。下を見て慎重に進まなければ、それらにつまずいて転んでしまうだろう。ネメアは、大股歩きでしっかりと地面を踏み込み、ゆっくりと歩いた。
いつもはネメアを置いて前へ行ってしまうクレタも、今回はペースを加減して歩いていた。
普通に山登りするだけでもかなり体力を使うが、今回はさらに、山頂に到着したら精霊と戦ってもらうつもりでいるのだ。道中で無理をさせて、修行の前に倒れられたら元もこもない。
歩く速度を一定に保ち、適度に休憩を挟みながら、二人は山を登り続けた。そして、日が暮れ落ち、夕食を食べてさらに一時間歩いた頃、ようやく山頂に着いた。
空には満月が浮かび上がり、もう真夜中の時間帯になっている。ネメアは眠気を感じ、大きなあくびをした。そんな彼の背中を、クレタはバシッと叩く。
「こんなところで寝ちゃ駄目よネメアちゃん!」
「イタッ!! そんなに強く叩かなくても、起きてますって……」
ネメアはヒリヒリと痛む背中をさすった。
クレタは、暗くなり始めてから魔法で産み出していた光の球を大きくして、辺り一帯を照らし出した。すると、今二人がたっている位置から数メートル離れた位置に、回りをロープで囲われて立ち入りできなくなっている、火口湖が見えた。
「あそこに、火口湖の精霊がいるんですね」
ネメアはごくりと唾を飲み込んだ。クレタは頷き、火口湖の方に向かって呼び掛けた。
「火口湖の精霊さん、出てきてくれないかしら? 修行に付き合ってほしいの!」
彼女がそういうと、火口湖からゴポゴポと煮えたぎるような音が鳴り、噴水のように水が沸き上がって、その水が人の姿を取った。水色の揺蕩う長い髪に、慈愛のこもった桃色の瞳、そしてクレタに負けないほど豊満な胸を持った大人の女性が、ロープの外側に降り立った。




