からかわれました
ネメアの作戦を聞きながら、クレタはこくこくと感心したように頷く。一方ケネイアは、腕を組んで固い表情を浮かべた。話が終わると、さっそくケネイアは口を開いた。
「悪くない作戦だ。だが、誰が囮役をやるんだい?」
「それは……」
俺がやりますと言おうとして、ネメアは口をつぐんだ。囮役は最前線でゴーレムを相手にしなければならず、足を動かしそうになった時、迅速にクレタへ報告しなければならない。果たして自分は、そのような重要な役目を担えるのだろうか。
少し目線を泳がせ、そして思い付いた。
「クレタさんにやってもらおうと思っています。囮役なら、ゴーレムの動きをよくよく監視する必要がありますし、それで足を動かす素振りを見せたら、すぐに俺達二人を担いで飛べますから」
「ふーん、そうかい。クレタ、君はとんでもない弟子を持ったね。一番危険な役割を、師匠である君にやらせようとしているじゃないか」
嫌みっぽく笑いながら、ケネイアはクレタに話しかけた。彼女は愛弟子のネメアを批判されて、ムッと頬を膨らませる。
「貴方って意地悪ね。ネメアちゃんがいう通り、私が囮をやるのが最善策だって、分かってるんでしょ?」
「フフッ、すまない。私は君に傷ついてほしくないんだよ」
「もう!」
茶かし続けるケネイアに、クレタは顔を赤くした。そんな二人の楽しげなやり取りを見て、ネメアは強い嫉妬心を抱く。やっぱりこの二人、昔付き合っていたのかもしれない。
「ゴーレム討伐の話に戻ってもいいですか、ケネイアさん。他に何か意見はありますか」
ネメアは苛立ちながら話を戻した。そんな彼の態度を愉快そうに、ケネイアは口角を上げる。
「じゃあ、言わせてもらうよ。ネメア君はクワを使って戦うと言ったけど、私はやめた方がいいと思うね。
クワは畑を耕すための道具であって、魔物と戦うためのものではないよ。道具は正しく使うべきだ。私の剣を貸してあげよう」
余裕たっぷりにそう言われて、ネメアはギュッと拳を握った。それでも、ケネイアの言っていることは筋が通っていて、何も言い返せない。それがまたいっそう悔しさを掻き立てた。
ケネイアはすでにネメアを視界から外していて、右手の薬指にはめたシルバーリングに左手をかざした。すると、ポンッと小気味の良い音と共に、アイテムボックスが召喚される。持ち物が沢山入っているのか、パンパンだ。
中を開けると、剣を三本見繕って床に並べた。一つは、ネメアの肩から太ももまでの長さがあるもの、もう一つは、肩から下腹部くらいの長さで、切っ先が鎌のようになっているもの、最後に、柄から先が30センチほどしかないものだ。
ネメアは真っ先に、一番短い剣を手に取った。素早い身のこなしで、小回りが効くのが自分の長所なので、軽い剣を使う方がいいと判断したのである。
「これにします」
「分かった」
他の剣を回収して、ケネイアはアイテムボックスを指輪の中に封印した。それからネメアに近づくと、彼が持っている短剣の柄をギュッと握りしめた。何をしているのか彼が不思議そうに見ていると、剣身がみるみるうちに伸びていった。
驚いてネメアが手を離すと、代わりにケネイアが両手で剣を持った。剣身の伸びが止まったのは、二メートルもの長さになった頃である。ケネイアが柄をトンッと一回叩くと、長さが元に戻った。それをネメアに渡して、彼はクスクスと笑う。
「なかなか面白いのを選んだね、ネメア君。この剣は強く握ると、剣身が伸びるんだよ。それじゃあ、ゴーレムと戦いにいこうか」
また馬鹿にされた。ネメアはぎりぎりと奥歯を鳴らす。クレタが溜め息を吐いて、ケネイアを注意した。
「ネメアちゃんをからかうのも、大概にしてよ」
「からかったつもりはないさ。今並べた三本の剣の中で、その剣が一番良いものだよ。エリュマほどではないけど、ネメア君はなかなか頭が回るみたいたから、特別にその剣を貸して上げたのさ。
上手く戦いなよ、ネメア君」
クレタとネメアに背を向け、ケネイアは上り階段に向かって歩き出した。二人は顔を見合わせて大きな溜め息を吐き、彼についていった。




