肝心の薬草がありません
じっとりと湿った空気が、肌にまとわりつく。背の高い木がズラリと生えているせいで、日があまり差し込まず、薄暗い。あまり近寄りたくない雰囲気を漂わせている森には、普通の森で採れるものより貴重な薬草が生えるが、それなりに強い魔物も潜んでいる。
全ステータスをマックスにする訓練として、薬草採取はあまり意味をなさないのではないかと考えていたネメアは、考えを改めた。隣で辺りを見渡し、鼻唄を歌いながら薬草を探すクレタに、彼は声をかける。
「薬草採取って聞いて、Dランクパーティーがやるような簡単なヤツを思い浮かべてたんですけど、ここならBランクパーティーが倒すような魔物がでてきそうですね」
「あら、この森には魔物なんて出てこないわよ。確かにちょっと不気味だけど、本当に魔物が出てくるような森は、昼間でもランタンを持ち歩いてないと探索できないほど暗いわ」
「えっ、それならどうして、たかが薬草採取が、全ステータスを上げる特訓になるんですか?」
「ウフフ、その内分かるわよ」
クレタは声を潜めてそう言うと、また鼻唄を歌い出した。ネメアはますます、訳が分からなくなってしまう。いくらか考察してみたが、何も理由が思い付かなかったため、薬草探しに専念する事にした。
一時間後。二人はまだ、一本も薬草を手に入れられずに、森の中をひたすら歩き続けていた。ネメアは、少し変だなぁと思いつつも、他の冒険者パーティーが先にきて、粗方採ってしまったのだろうと考えると、納得できた。
さらに一時間、二時間と経過するが、一向に薬草は見つからない。もう随分と、森の奥まで来てしまった。そろそろ一本ぐらいは薬草が欲しいなぁと、ネメアは焦り始める。一方クレタは、動じる様子を一切見せず、先頭に立ってグングン奥に進んだ。
日が暮れ始めた頃。もう、入り口がどこにあったか忘れてしまい、森から出られなくなっても、薬草はちっとも見つからなかった。ネメアの足は疲れてパンパンになり、心は不安が巣くって、心身共にボロボロになっている。彼はカラカラな声でクレタに頼みごとをした。
「クレタ、さん……もうそろそろ、休憩しませんか? 俺達もう、何時間も歩いてますよ………」
前を突き進んでいたクレタは足を止め、ネメアの方を振り返ると、クスッと笑った。
「なーにいってんの! たかだか薬草採取で、いちいち休憩をとってる冒険者なんかいないわ。まだ一本も見つかってないんだから、さっさと先へ進みましょ」
ネメアはゾッとした。これだけ歩いて、クレタは森には入った時と変わらず、ピンピンしていたのだ。彼女が見せてきたステータスカードは本当だったのだと実感させられる。
くるりと背を向けて、クレタはまた歩き始めた。このままでは体力が持たないし、森から二度と出られなくなる。ネメアは必死に彼女を呼び止めた。
「待ってください! クレタさんは平気かもしれませんが、俺はもうヘトヘトなんです。それに、これ以上奥へ進んだら、帰れなくなっちゃいますよ!? 森で野宿するにしたって、何も準備してませんし……」
「全ステータスマックスにしたいなら、この程度は耐えなさい。ほら、付いてこないと置いてくわよ」
無情にも、クレタは先に進んでしまう。ネメアは心が折れそうになった。この人は滅茶苦茶だ。全ステータスマックスにする特訓を受けたいなんて、言わなきゃよかった。
ネメアは膝から崩れ落ちそうになる。その時、今度はクレタの方から声をかけられた。
「自分の事、平凡すぎるって馬鹿にしてきた奴ら、見返せなくていいのかしら?」
ハッと目を見開き、ネメアはクレタに駆け寄る。
「嫌です! 俺にも、男としてのプライドがあります!」
ネメアは真剣な眼差しになって答えた。クレタは途端に顔を輝かせ、彼の手を取る。
「ネメアちゃんカッコいい! そう、その意気よ。今夜は野宿するから、木の枝を集めながら行きましょう」
「はい!」
腹の奥から声を出し、ネメアは頷いた。




