こんなの勝てるんですか?
ようやくクレタが歩みを止め、地面に下ろしてもらえた頃には、ネメアはすっかり目を回していた。気を失う寸前だが、なんとか持ちこたえている。
揺らぐ意識の中、ドシーン!! と大きな地響きが聞こえてきて、彼は途端に意識がはっきりした。眼前に、ゴツゴツとした岩が混じった、巨大な土壁がそびえたっている。ゴーレムの背中だ。
喉の奥がゾワリとして、彼は短剣を構えた。肌がピリピリと痛み、腰が自然と低くなる。クレタもまた、左足の踵を右足の爪先でこすり、目付きを鋭くさせた。二人とも戦闘態勢に入った。
「ネメアちゃん、今回は私のサポートをお願いできるかしら? どういう風にやるかはお任せするわ」
「……了解です」
唾をごくりと呑み込み、ネメアは頷いた。返答がきたのを合図に、クレタは助走をつけてジャンプし、まだ崩れていない家の屋根に飛び乗ると、そこから更に跳躍して、ゴーレムに飛び膝蹴りをきめた。
彼女の攻撃を受けたそいつは、足の裏が浮き足立ち、僅かによろめいた。しかし、それだけだった。そいつはゆっくりと体を動かして、こちらに顔を向けようとしている。
ゴーレムに、クレタの位置を知られない方がいい。瞬時にそう感じ取ったネメアは、短剣を両手で握って、ゴーレムに突っ込んでいった。
切っ先がゴーレムの足首に突き刺さる。そのまま腕にグッと力を込めて、彼はより深く短剣を突き刺そうとした。土でできているはずなのに、鋼のように固い感触が伝わってくる。
なんとかダメージを与えようと、全身でぐいぐい短剣を押した。それでも切っ先はあまり奥へと進まない。今度は肩から強く突進した。すると、少しだけ剣がめり込んだ。
こんな事をしたら、刺した短剣が抜けなくなるのは分かっている。だが、気にしている場合ではない。振り返ったゴーレムがクレタを見つければ、必ず彼女に攻撃を仕掛けるだろう。それが当たったら、主戦力を失ってしまう。
何度も突進をしているうちに、不意に感触が柔らかくなって、ぶすりと短剣が刺さった。ゴーレムの足の指がピクリと跳ねる。こちらに向きそうになっていた視線が逸れた。
ネメアがつくった隙をチャンスに、クレタはまた屋根に上がると、そこから飛び上がって、今度は太ももにパンチを食らわせた。拳がぐしゃりとめり込み、土がパラパラと地面へ落ちる。
着地した彼女は、さらに足元へ連続パンチをした。目にも止まらぬ早さで、左右の拳が次々に繰り出される。これには堪らず、ゴーレムが素早く足をどけて、一気にこちらへ振り向いた。
骨にまで響くような振動が地面を揺らした。クレタは足を踏ん張ってそれに耐えたが、ネメアは尻餅をついてしまう。
ゴーレムはネメアを踏み潰そうと、右足を高くあげた。すかさずクレタが彼を助けにいこうとしたが、振動で体が痺れたのか、足がもつれて転んでしまう。彼も同じく痺れていて、動けなかった。
殺られる……!! そう思い、ネメアはギュッと目を瞑った。
その時、瓦礫の陰から何者かが現れた。鞘から長剣を抜き取り、突き上げる。
来るはずの痛みが来ないことに違和感を抱いたネメアが目を開けると、黄金色の髪は短く切り揃えて、後ろを刈り上げており、ピカピカと輝く鉄の鎧を纏った男が立っていた。




