何事ですか!?
ゴーレム討伐の依頼を受け、冒険者ギルドから出た後、ネメアはクレタに文句を言った。
「何であんな取り引きしちゃったんですかクレタさん! どう考えたって俺達が損するし、誘い文句が汚いです!」
「いいじゃない。私はネメアちゃんに強くなってほしくて頑張ったのよ」
目の下に指を添えて、「しくしく」と、彼女は嘘泣きした。普通なら殴りたくなってしまう態度だが、彼女は美人なため、彼はそれ以上怒れなかった。
「もう、仕方ないですね。ゴーレムが暴れている町まで行きましょう」
「ネメアちゃんなら、そう言ってくれると思ったわ。大丈夫よ、危なくなったら私が助けるから」
「はぁ、頼みますよ」
溜め息混じりに、ネメアは頷いた。
ギルドがある町から、ゴーレムが暴れている港町まで、二人は徒歩で移動することにした。これは馬車代の節約と、修行のためだ。
ネメアは、クレタと出会う前なら音をあげてしまいそうな距離を歩かされたが、鍛えられて体が強くなっていたため、平気であった。
夜は野宿をした。夕食は、チーズや牛乳、鳥のササミの薫製を使ったシチューを食べた。チーズの濃厚な口当たりと、まったりとしたコクに、体が元気になって、ゴーレム討伐を頑張ろうという気になれた。
日を跨ぎ、時刻は午前9時。二人は港町に到着した。ゴーレムに破壊されたのか、家々の屋根や壁が無惨に破壊され、瓦礫が道を塞いでいる。それに加えて、悲鳴がどこからともなく次々と上がってきた。
悲惨な町の状況に、ネメアは身がすくんだ。ここまで甚大な被害を出す魔物と、自分はまともに戦えるのだろうか? 足が、一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。
そんな怯える彼の腕を、クレタはギュッと掴んだ。彼女は真剣な目をして、ボロボロになった町を見据えている。「逃げるな」と、彼に叱咤するかのようだ。
「武器を持って、ネメアちゃん。今回は短剣を使いなさい」
普段、明るく陽気な声でネメアに話しかけることが多いクレタだが、今回は氷のようにシンと冷たい声で彼に指示を出した。彼は全身に鳥肌を立てながら、アイテムボックスを召喚した。
「えっと、切り口から火が出る短剣でいいですよね?」
「いいえ、全部の短剣を持っておきなさい。これは私が予想してたよりも強敵だわ」
「は、はい」
顔を青くしながら、彼は普通の短剣二本と、火が出る短剣一本を、アイテムボックスから取り出した。それから、短めのロープも取り出し、普通の短剣一本と火が出る短剣を、それで腰に巻き付けた。
戦う準備ができたところで、二人はどこでゴーレムが暴れているのか探し始めた。邪魔な瓦礫はクレタがパンチで破壊し、道を開けた。
しばらくそうして町の中を進んでいると、ズシン、ズシンと重い振動が響いてきた。何事かと思ってネメアが辺りをキョロキョロ見回すと、東の方に、人型をした巨大な土のかたまりが見えた。背丈は二階建ての家を優に越している。
そいつは、手当たり次第に拳を振り回し、家屋を破壊していた。その様子を見て、ネメアは堰を切ったように背筋から冷や汗が流れた。震える右手を動かし、ゴーレムの方を指差す。
「クレタさん、あれ…………」
「いたわね」
クレタの目付きは鋭くなった。彼女はネメアの方をくるりと向くと、彼を肩に担いだ。
「何をするんですか!?」
突然の出来事に、彼は目を白黒させる。
「急ぐわよネメアちゃん!!」
ゴーレムがいる方角へ、彼女は全力疾走し始めた。瓦礫はパンチで壊すのではなく、今度は軽快なジャンプで飛び越えた。彼女の腕の中で、彼はぐわんぐわん揺さぶられた。




