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何故ですか

 祈りを終えて手を下ろし、ネメアは首を横に向けた。瞼を閉じ、クレタが柔らかな寝息を立てている。窓から差し込む朝日が、彼女の豊かな黒髪を艶やかに照らしていた。


 彼女が寝ているところを初めて見た彼は、新鮮な気持ちと共に胸を高鳴らせた。長い睫毛に、湿っぽい唇、たわわに実った果実のように豊満な胸、目に映るクレタの全てが、彼の心を掴んだ。


 今なら、キスぐらいしたってバレやしない。こんな美人を無視するなんて、そっちの方が無礼だ。そう自分に語りかけ、ネメアはヒリヒリと痛む腕を伸ばし、両手でクレタの頬を優しく包んで、顔を徐々に近づけていった。


 あともう少しで、彼女の唇を味わうことができる。そう思った瞬間、彼女の目がパチリと開かれて、琥珀色の瞳が輝きを持った。驚いたネメアは、思わず体をのけ反らしてしまう。


「く、く、クレタさん!」


「ネメア……ちゃん、起きたのね」


 寝ぼけ眼を人差し指で軽く擦りながら、クレタはあくびをした。それから、大きく開けた口を閉じたかと思うと、急にネメアに抱きついた。彼は「ふぇ?」と、間抜けな声を上げる。


「急にどうしたんですか?」


「ネメアちゃん、目を覚ましてよかった。本当に…………」


 声を震わせながら、彼女は彼の顎の下に顔を埋めた。彼の首に、冷たい雫が滴る。その感触に彼はギョッとした。


「クレタさん、泣いてるんですか!?」


「…………だって、ネメアちゃん全然目を覚まさないんだもの。薬草の効果に耐えきれなくて、死んじゃったんじゃないかって、ずっと不安だったのよ」


 感情を溢れさせ、クレタはしゃくりあげた。彼女がこんなに悲しんでくれるとは思わなかったため、ネメアは歓喜と疑問が入り交じった。出会って少ししか経っていないのに、どうしてこんなに心配してくれるのだろう?


 覆い被さる彼女の背を見つめ、彼は小首を傾げた。美人に身を案じてもらえるのは嬉しいけど、不思議で仕方がない。こんな冴えない俺の、どこがクレタさんを惹き付けているんだろう?


 頭が混乱して、彼は石のように固まった。彼女もまた、静かに息を漏らして彼に密着し、離れようとしない。そんな状態が五分ほど続いた。


 涙が止まり、ネメアから顔を離したクレタは、赤く腫らした目尻をぬぐって謝罪した。


「ごめんなさいネメアちゃん、服を濡らしちゃったわね」


 彼女の言葉を聞いて、彼は自分の胸元を見た。牛の革のジャケットはいくらか水を弾いていたものの、吸収しきれなかった分が染み込んで、じんわりと濡れている。しかし彼は怒ることなく、緩やかに目を細めた。


「大丈夫ですよ。これぐらい、すぐに乾きますから。それよりも、昨日僕が倒れた時、クレタさんがここまで運んでくれたんですよね。ありがとうございます」


「それぐらい、どうってことないわ。とにかく、生きててくれて本当に良かった。私、ネメアちゃんが起きたら、聞きたいことがあったの」


「聞きたいこと?」


「えぇ。貴方はアンデッドに取り憑かれている時、姉さん、オリーブ姉さん、って呟いてたの。オリーブって、あのオリーブ・ヘリクルスのこと?


 世界各地にいる精霊を従わせ、数々の強力な魔物を倒した逸話があり、英雄と崇められている伝説のSランクパーティー、オリーブパーティーのリーダーのことよね?」


 クレタの質問を聞き、ネメアの顔が強ばる。額に汗をかき、肩を上げて硬直した。



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