どうか、安らかに
昨日は疲れていたため、更新遅れてしまいました。申し訳ございません。
視界が眩しい。頭がクラクラする。有り余る魔力に翻弄され、暴れてしまいそうだ。でも、俺なら制御できる。
ネメアは、強力な一撃を与えることができるものの、詠唱が長い魔法の呪文を唱えだした。この魔法は、元仲間のアテネが使っていたものだ。彼自身は初めて使うのだが、アテネが唱えているのを聞いている内に、呪文を覚えていた。
二体のアンデッドの額に、五芒星が浮き上がり出す。アンデッド達は彼の攻撃を止めるために、火の玉や光の剣などを放ったが、盾が吸収しているため、全く効いていない。また、盾が壊れそうになっても、即座にクレタが修復しているため、歯が立たなかった。
このままでは埒があかないと思ったのか、二体のアンデッドは一度攻撃を止めた。顔を見合せ、頷きあったかと思うと、ネメア達に背を向けて、一目散に走り出した。逃げるつもりだ。
ネメアは呪文を唱えながらアンデッドを追いかけた。そいつらは左右に大きく開け、どちらか一方は助かるように離れる。魔法の射程が外れてしまうのではないかと思い、彼は焦った。
だが、薬草によって魔力を増幅していたため、いつもより魔法の効果範囲が広がっており、外れることはなかった。それだけでなく、彼自身が魔法の射程位置の調整がうまいため、アンデッド達がどれだけ遠ざかっていこうと平気だった。
彼と二体のアンデッドとの距離が5メートルほど離れた頃に、魔法の詠唱が終わった。一分は唱えていただろう。額の五芒星が強く光り、そいつらは木っ端微塵になった。灰が立ち上っていく。
勝った!! 勝利の喜びに、ネメアはガッツポーズをとる。だが、次の瞬間には強い疲労感が訪れ、体がうつ伏せにバタンと倒れた。肺や心臓が焼けつくように痛い。急いで酸素を確保しようと息を吸ったが、後頭部を強く殴られたかのような目眩に襲われ、意識を失った。
気絶した彼は、海の底に力なく沈んでいくような感覚を覚えた。体から心が離れていくようだ。急激に魔力を増幅させたことに、体が耐えられなかったのかもしれない。
自分はここで死ぬのか。そんな考えがチラリとよぎった時、二つの手が魂を押し上げてきた。後ろを見ると、鉄の装備をまとった男と、緑色のエプロンドレスを着ている女がいた。鉄の装備をまとった男が口を開く。
「俺達は、魔物の襲撃から、この村の隣村を守れなかった冒険者だ。あの村では全ての村人がヒュドラに食われ、誰も助けることができなかった。それが心残りで、俺達はアンデッドになってしまったみたいだ。
人を救うためにいるはずの冒険者が、人を困らす魔物になってしまうなんて、情けない話だよ。俺達を、止めてくれてありがとう」
緑色のエプロンドレスを着た女も話し始めた。
「貴方は、私達のようになっては駄目よ。私達が救えなかった分まで、魔物に苦しめられている人達を救ってあげて。どうか、どうか…………」
背中を強く押される感覚と共に、ネメアは気絶から目覚めた。ビリビリと全身の筋肉が痺れて、体を起こすことができない。それでも、生きているという実感が心地よかった。
手の平が、サラサラとした柔らかいものに触れる。シーツの手触りだ。クレタが宿屋まで運んでくれたのだろう。
戦ったアンデッドは、ヒュドラに殺された村人ではなく、ヒュドラから村人を守ろうとした冒険者だった。彼らへの敬意と、死にかけた自分を助けてくれた感謝を込めて、彼は手を合わせた。




