杞憂でした
素早く呪文を唱え、ネメアは火の玉を二つ召喚し、二体のアンデッドに一つずつ命中させた。どちらも魔法の盾が吸収してしまったが、盾は少し薄くなった。魔法のバリアは何回か攻撃すると、壊すことができる。
続けざまに、ネメアは火の玉を四つ召喚した。二体のアンデッドは左右に分かれ、攻撃を避けようとする。彼は右にいったアンデッドに、火の玉を一つ飛ばした。
狙われたのが右のアンデッドであったため、左のアンデッドは気か緩み、一瞬足を止める。その隙をついて、彼は三つの火の玉を一斉にバリアへ命中させた。パリンと音がして、盾はガラスのようにくだけ散る。本体へ攻撃するチャンスだ。
彼は、強い衝撃波を起こす魔法の呪文を唱え始めた。左のアンデッドはバリアをはる魔法の呪文を唱えだしたが、今度こそ間に合わないだろう。
しかし、右から金色に輝く光のナイフが飛んできて、ネメアの集中は途切れた。舌がもつれて、詠唱が途切れてしまう。クレタが召喚したバリアのおかげでナイフを防ぐことはできたが、それは割れてしまった。
追撃といわんばかりに、二本目のナイフが飛んでくる。彼は咄嗟に肘を横に出し、肘当てで攻撃を受けた。右を向くともう一体のアンデッドが、十本のナイフを空中に浮かせ、切っ先をこちらに向けていた。危険信号が頭から発せられ、喉の奥から「ヒュッ」と息が漏れる。
十本のナイフが、かまいたちのようにネメアを襲った。彼は体を横に反らしたり、屈んだりして必死に攻撃を避けたが、右耳と左腕、左足のふくらはぎを切ってしまい、タラリと血が流れた。避けながら左をチラリと見れば、そこにいたアンデッドはバリアを復活させていて、焦燥感を抱く。
駄目だ、このアンデッド達は上手く連携をとっていて、一人じゃ到底敵わない。一方を攻撃すれば、もう一方が即座にカバーしている。
ネメアは、自分を追放したアレス達のことを思い出した。アレスは正確な太刀筋で剣を振るい、セレーネは素早くそこを追撃して、時間を稼ぐ。その隙にアテネが強い魔法の呪文を唱えて、相手に大ダメージを与える。それが彼らの戦い方だった。
認めたくないが、彼らの連携プレーは鮮やかで、Sランクパーティーになれるほどの実力を秘めている。でもそんな中、自分はほとんど何もできなかった。前衛に立つアレスとセレーネのサポートをしていたが、逆に二人の動きの邪魔になってしまい、何度も怒られた。
回復魔法をかけようにも、先に自分が魔物に攻撃を受けてしまい、治癒するのが遅れて、迷惑をかけた事がたくさんあった。
思い返せば自分は、追放されて当然のお荷物だったかもしれない。
ネメアの胸の中は影に覆われた。ナイフで切れた箇所を魔法で回復しながら、半ば諦めのような感情を覚える。俺なんかじゃ、この二体のアンデッドには勝てないんじゃないだろうか。アレスさん達だったら、もっと上手く戦えたかもしれないのに。
暗い思考で頭が埋め尽くされていく。その時、クレタが飛んできた。助走をつけて、彼がいるところまでジャンプしたのだ。
「ネメアちゃん、防護は私に任せなさい。それと、この薬草を食べるといいわ」
彼女は、ネメアの前後左右にバリアをはって、彼に一本の薬草を渡した。以前、薬草採取の依頼を受けとき、巨木の精霊から譲り受けたものだ。
彼の心に光が差した。そうだ、アレスさん達とは馬が合わなかったけれど、今はクレタさんという心強い味方がいる。クレタさんは俺が失敗しても、必要以上に責めてこない。それにこの薬草は、俺が巨木の精霊に強さを証明したからこそ、手に入れられたものだ。
杞憂だった。こんな事でうじうじ悩む必要なんてない。
ネメアは薬草を受け取り、口の中へ放り込んだ。噛むたびに、苦い汁が溢れて、舌が痺れる。あまりの不味さに顔が歪んだ。それでもなんとかして飲み込むと、腹の底から熱いものが込み上げてきて、魔力がみなぎった。




