もう騙されません
体の震えを押さえつけ、ネメアはクレタにペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます、クレタさん。俺、放牧場までアンデッドを引き付けるって言ってたのに、取り憑かれちゃうなんて、情けないですよね」
ネメアは自嘲の笑みを浮かべる。クレタはそんな彼の頭を撫でて、ゆるりと首を横に振った。
「いいえ、初めてアンデッドと戦うとなれば、憑依されても仕方がないわ。気を取り直して、残りのアンデッドを倒しましょう。
私が待機していたところに、三体のアンデッドが現れて、そいつらの動きを止めてあるわ。上手くここまで誘導してきて」
「はい」
軽く作戦を話し合い、二人は牛舎に戻った。光の槍に串刺しにされている三体のアンデッドは、二人がくるなり、苦しそうな呻き声を上げる。その様子に、クレタは軽く舌打ちをした。
「チッ。あいつらは本当に、こちらの同情を誘うのにご執心のようね。ネメアちゃん、騙されちゃだめよ。アンデッドに痛覚はないから、あんな風に痛がってみせるのは演技なの」
「さすがに大丈夫です」
おぼろ気ながら、ネメアは木の根を出す魔法を無理やり使わされて、首が絞められそうになった事を覚えていた。もう、手加減はしない。
呪文を唱え、毒々しいオーラを放つ縄を三本召喚した。この縄は、剣で切りつけたり、火で燃やしたりしても切断されることはないが、三十秒ほどしか実態を保つことができないという物だ。
彼は三本の縄をそれぞれ、アンデッドに刺さっている槍に括りつけた。それらの先端をしっかりと握り、放牧場まで走り出す。同時に、クレタが呪文を唱えて、彼の背後にバリアを召喚した。
引きずられているアンデッドは、頭が痛くなるような甲高い声で、呪文を唱え始める。火の玉や鋭いナイフが次々と彼を狙った。しかしそれらは、彼女が召喚したバリアによって吸収されていく。
ネメアは走りながら呪文を唱え、放牧場に到着してから、クルっと後ろを向いた。手を前に付きだし、呪文の最後の一小節を口に出す。大きな衝撃波が、三体のアンデッドを襲った。
これで、一気に蹴りをつけることができた! そう思って、ネメアは口角を上げた。だが、すぐに唇をへの字に曲げる事となった。三体のうち一体は、骨の体がバラバラに原っぱへ散らばったが、残り二体はバリアをはっていたのだ。
ネメアの後から駆けつけたクレタは、魔法を使い、牛舎と放牧場を繋ぐ扉を凍り付けにした。
「これで、アンデッドは牛舎の中には入れないわ。思う存分戦いなさい」
彼女がそう言うと、「分かりました!」と一言、彼は背筋をピンと伸ばした。激しい戦いが巻き起こる予感に、手の平が汗で濡れた。




