どこにいったの?
クレタは、自分の元に現れた三体のアンデッドを、魔法で出した光り輝く槍で串刺しにし、位置を固定して、ネメアが引き付けにくるのを待っていた。
本当は、牛に攻撃を当てないようにしながらアンデッドを倒すぐらい、彼女にとって造作もない事だったが、ネメアの修行のため、倒さないようにしているのだ。しかし、彼は二体のアンデッドを放牧場へ連れていったきり、戻ってこなくなってしまった。
アンデッドとの戦いに、苦戦しているのかしら? あの子は、魔力のステータスはまだまだ低いけど、賢く立ち回れるし、魔法を正確にコントロールする技術も持っているから、大丈夫だとは思うけど……
ネメアの事を心配して、クレタは眉を潜めた。様子を見にいった方がいいかもしれない。
三体のアンデッドが逃げ出さないよう、相手を金縛り状態にする魔法をかけてから、クレタは放牧場に向かった。そして彼女は、地面から生えた太い木の根に囚われ、動けなくなっているネメアを発見した。
木の根は、彼の両腕を後ろに固定し、足をひとまとめに縛っていた。また、首もとにぐるりと巻きついて、徐々に彼の首を締めようとしている。
クレタは慌ててネメアに駆け寄った。近づくと、彼が小声で何か喋っているのが分かった。
「姉さん、どこにいったの…………? 姉さん、オリーブ姉さん…………」
ネメアの目に精気はこもっておらず、タラタラと涙を溢していた。クレタはハッと息をのみ、思わず後退ってしまう。彼はアンデッドに取り憑かれているようだ。
クレタは、自分の心拍数が急激に上昇していくのが分かった。頭が真っ白になり、血の気が引いていく。だめ、冷静にならないと……!
大きく息を吸って吐き、彼女はネメアの顎をくいっと持ち上げて、頬を思い切りビンタした。途端に、彼の瞳は光を取り戻して、体を捕らえていた木の根が引っ込む。すかさず彼女は、彼を強く抱きしめた。
「ネメア!!」
高い声で名前を呼ぶと、ネメアの背中からアンデッドが飛び出した。彼はハッと顔を上げる。
「く、クレタさん!?」
クレタの顔が触れてしまいそうなほど近くにあって、ネメアはドキリと肩を跳ねさせた。
「よかったわ、アンデッドを引き剥がす事ができて」
安堵の笑みを浮かべ、クレタは抱いていたネメアの体を離し、彼の背後に立っているアンデッドを睨みつけた。
「よくも私の大事なネメアに、手を出してくれたわね」
周囲が、彼女の怒気で満たされる。ネメアは、計り知れないほどの殺気を感じ、怖くなって歯をならした。アンデッドもまた、危険を察知して呪文を唱え始める。魔法を打ち消す盾を召喚する魔法だ。
しかし、アンデッドが詠唱を終えるよりも先に、クレタの方が早く魔法を発動した。そいつの頭に閃光がとどろき、あっという間に黒焦げになってしまう。
アンデッドを倒し終えると、クレタは「ふぅ」と一息吐いて、ネメアに声をかけた。
「気をつけてね、ネメアちゃん。アンデッドは同情を誘うのが上手いから」
ネメアは、クレタの剥き出した底知れぬ怒りにまだ怯えていて、声をだすことができず、ただゆっくりと頷いた。




