戦いたくなさそうです
拘束されたアンデッドは、自分達を捕らえた木の根がどこから生えてきたのか、キョロキョロと首を回した。ネメアは干し草の中から飛び出して、大声を上げる。
「その魔法は俺がかけたものだ! 悔しかったら、俺に取り憑いてみな!!」
挑発し、ネメアは東にある扉を目指した。その扉から、放牧場に出ることができるのだ。二体のアンデッドは、体を形成する骨を所々置き去りにしながら、無理やり木の根から抜け出して、彼を追いかけ始めた。
彼が時々後ろを振り返ると、アンデッドの骨が徐々に戻っていた。魔法で戻しているのだろう。魔法を使える相手はかなり厄介だ。彼はクレタ側にいった三体もおびき寄せようと考えていたが、まずはこの二体を倒すことに集中しようと決めた。
放牧場に出ると、素早く呪文を唱え、追いかけてきたアンデッドの目の前に、光の球を召喚した。外は真っ暗なので、視界を明るくするためと、目眩ましをするためだ。眩い光が直撃した二体は、ダメージこそ受けていないものの、怯んで動きを止めた。
その隙にまた、ネメアは呪文を唱える。今度は、強い衝撃波を与える魔法だ。この魔法は威力が高い代わりに、コントロールが難しいため、左にいる一体だけを狙った。
パァァン!! という破裂音と共に、左にいたアンデッドの骨はバラバラに散らばる。右のアンデッドは、飛んできたその骨から身を守るために、地獄の底から響いてくるような恐ろしい声で呪文を唱え、バリアをはった。
バリアは紫色に光り、丸い盾のような形をしていて、右のアンデッドの四方八方を取り囲んでいる。ネメアは再び衝撃波を与える魔法を使い、そいつに攻撃してみたが、バリアによって吸収されてしまった。これでは、倒すことができない。
一旦右のアンデッドからは目線を反らし、バラバラになった左のアンデッドがどうなったのか確認してみた。頭蓋骨がてっぺんから灰に変わっていき、空に吸い込まれていく。どうやら、倒せたようだ。
ホッと一息吐き、天国にいける事を祈りながら、ネメアは右のアンデッドに向き直った。不思議なことに、こいつは攻撃を仕掛けず、ただこちらを見つめている。
もしかして、俺と戦うつもりはないのかな?
そう思うとネメアはハッとして、いたたまれない気持ちになった。アンデッドは魔物と言え、元は人間だったのである。同族を攻撃することに、罪悪感を抱いているのかもしれない。
彼の戦意が揺らいだ。その瞬間、アンデッドが彼に飛びかかり、肩を強く掴んだ。額を合わせ、彼の中に意識に滑り込んでいく。
強い目眩に襲われ、ネメアは地面に膝を着いた。頭がクラクラして、視界が歪んでいく。もう、意識を保てそうにない。
心が、途方もない闇で覆い尽くされていく感覚があった。全身に虫が這っているようで、とても気持ちが悪い。
意識を手放す寸前、「少しでもアンデッドに同情したり、可哀相だと思ったりしたら、すぐに体を乗っ取られてしまうわ」というクレタの声が響いた。
あぁ、そう言えばクレタさんの声って…………
がくりと頭を下げ、アンデッドに体を乗っ取られたネメアは、ヨロヨロと立ち上がった。




