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勿体ない

 キャンサは、アテネが呪文を唱え終えるのとほぼ同時に、解毒魔法の呪文を唱えていた。こうなることが分かっていたのだ。アレス達は嫌味な奴らだが、見殺しにする訳にはいかない。


 毒をまともに受け、失神していたアレスとセレーネは、鋭い悲鳴を上げながら目を覚ました。強い電圧をかけられたかのような痛みが、全身を駆け巡る。最前線にいたアテネは、声もださずにパタリと倒れ、口から血を吐いた。


 いきなり致死量の毒を浴びせられた後、無理やり解毒させられたため、体がついていけなかったのだ。


 悶え苦しみながら、アレスはキャンサを怒鳴り付ける。


「おぉいぃ、何すんだよてめぇ!!」


「何って、解毒したんだよ。私に怒るよりも、ヒュドラと戦うことに集中して」


 冷静にキャンサが言い返すと、アレスは舌打ちをして、ヒュドラに向き直った。腰につけた鞘から長剣を抜き、構える。


「セレーネ、お前はアテネを離れた所へ連れていけ。こんだけ首があったら、俺達だけじゃ切り落とし切れない。アテネが回復するまで、時間稼ぎだ」


「りょ、了解」


 ふらふらになりながらも、セレーネはキャンサのいるところまでアテネを運んだ。それから四足歩行の体勢をとり、飛び上がってアレスの元まで戻った。


「首が増えるっていうあんたの話、本当だったんだ」


 ちらりと後ろを向いて、セレーネはキャンサを睨み付ける。キャンサはやれやれと首を横に振りながら、アドバイスをした。


「あの時、もっと真面目に話を聞いてほしかったな。ヒュドラは強すぎて、あまり情報を解析できていないから、信じられないのも仕方ないけど。


 ヒュドラの毒は、吸わなければ平気だよ。付着しただけなら、大事には至らない。それから、首が再生しないようにするには、切り落とした後に根本を焼ききるしかないよ。それは私がやる」


「そうかよ。いくぞ、セレーネ!」


 アレスは息を止めて走り出した。彼の後に、セレーネが続く。ヒュドラが彼らに対して、また毒の霧を吐いた。彼らは怯まず、そのまま突っ込んでいく。


 二人は一本の首を板挟みにし、アレスは長剣で、セレーネは長く伸びた鋭い爪で、同時に切り裂いた。しかし、首はあまりにも固く、傷をつけることはできたが、切り落とすことはできない。


 その後も彼らは苦戦し、とうとうアレスが、勢いあまって毒を吸ってしまい、死にかけた。キャンサが魔法で解毒したものの、戦闘不能状態に陥ってしまう。セレーネが彼女の元まで彼を運んできた。


「ゼエ、ハア……だめ、全然歯が立たない…………」


「今日は諦めて、帰った方がいいんじゃないかな。貴方も、体力がもたないでしょ」


 キャンサがそういうと、セレーネは「シャーッ」と威嚇し、牙を向いた。


「誰が諦めるもんか! あたし達はヒュドラを倒して、Sランクパーティーになるんだから!」


 そういうと、セレーネはキャンサに背を向けて、突っ走ってしまった。しかし数分後には、毒にやられて手当てをされていた。


 力なく倒れ、息も絶え絶えになっている三人を見回し、キャンサは溜め息を吐く。


「はぁ、焦って出世しようとするから、こういう事になるんだよ。さて、どうしようかな? 三人のせいでヒュドラが起きちゃったから、このまま放置するわけにもいかないし」


 頭をポリポリとかきながら、キャンサはヒュドラに向かって、右手の手のひらを広げた。眠りの呪文を唱え、ヒュドラを眠らせる。


 それから、力なく倒れている三人を見下げて、回復の魔法をかけた。彼らはゆっくり起き上がりだしたかと思うと、突然座り込み、頭を抱えた。


「う、ぐわぁぁ! なんだこれ、頭が痛い!!」


 アレスが苦痛の叫びを上げる。それを見て、キャンサは肩を落とした。


「あちゃ~、副反応が出ちゃったか。やっぱり回復魔法は、制御が難しいな」


「あ、貴方! あの使えないネメアの回復魔法は、副反応なんて出なかったわよ。どういうこと!?」


 頭痛に顔をしかめながら、アテネが尋ねた。彼女の質問を聞いて、キャンサは思わず笑みがこぼれる。


「へー、それじゃあネメアくんは、回復魔法を使うのが上手だったんだ。貴方達、勿体ないことをしたね。副反応なしで回復魔法をかけられる人って、珍しいのに」


 キャンサの返答に対して、アテネは「は?」と言葉が漏れ、青ざめる。アレスとセレーネも、目を丸くした。

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