無様な攻撃
二日後、アレス達は生ゴミのような悪臭が漂う、湿地帯を訪れていた。足を踏み込むごとに、地面がグニャリと沈んでとても歩きにくい。ハエが飛び交っており、とても不愉快な場所だ。
ここのどこかに深い沼があり、ヒュドラはそこに生息しているのだという。
泥に前進を阻まれながらしばらく歩いていると、アテネが喋りだした。
「貴方達は知らないでしょうけど、ヒュドラという魔物は、普段は寝ているそうよ。一週間に一度だけ起きて、村を襲いにいくらしいわ。
だから今日も、ヒュドラは寝ているはずよ。私が魔法を使えば、一撃で倒せちゃうんじゃないかしら」
彼女の話に、セレーネが頬を膨らませる。
「えー!! あたし、ヒュドラと激しく殺し合いたかったんですけど!? 最近戦った魔物は、雑魚のネメアに合わせて弱っちいのばっかりだったから、ようやく手応えのある奴と戦えると思って、楽しみにしてたのに!!」
「あーら、それは残念ね」
「シャーッ!! ムカつくー!!」
大声でやり取りをするアテネとセレーネの間に、アレスが割って入った。
「おい黙れよ二人とも。あっちに、ヒュドラがいるのが見えたぞ」
アレスは真っ直ぐ指をさした。その先には、ギラギラと光る鱗が見える。二人は口をつぐんだ。
「アテネ、ヒュドラは本当に寝てるんだな。だったら、お前が先に威力の高い魔法を使え。俺とセレーネは、様子を見て攻めにいく。
キャンサ、お前は……」
新しく入ったばかりの仲間の事はよく分からないため、どう指示をすればいのか分からず、アレスは言葉が途切れた。それを察して、キャンサは自ら、どのように動くか決めた。
「私はアレスさんとセレーネさんより、さらに離れた所にいるね。私、遠距離からでも回復魔法を使えるから、ヒュドラの攻撃に当たらないようにしつつ、助けるよ」
「おぉ、回復魔法を遠距離から使えるなんてすげえな。お前の前にいたネメアって奴、近距離でしか使えねえから、俺達を回復するより先に自分がボロボロになりやがって、役に立たなかったんだよ」
ネメアの陰口を言いつつ、アレスはキャンサの動きに納得した。
彼女は、無意味に人の悪口を言う彼の態度に気分を悪くしたが、これから起こるであろう事を想像し、ひっそりと嗤う。
十数分後、四人はヒュドラの元に到着した。ヒュドラは沼の中で、九本の長い首を内側に曲げながら、寝息を立てている。
沼の淵にアテネが立ち、無数の刃を降らせる魔法の呪文を唱えはじめた。この魔法の呪文は、唱え終えるのに五分かかるが、ヒュドラが起きる気配は全くない。
彼女が最後の一小節を唱えた。ヒュドラの首元に、鋭い光刃物が雨のように降り注ぐ。九本の首全てが切り落とされた。彼女は勝利を確信し、ニヤリと口角を吊り上げる。
だが次の瞬間には、顔をひきつらせる事となった。切断された首の根元がボコボコとうごめいて、十八本の首が生えてきたのだ。
十八本の首についた十八個の頭は、アテネの方を向いて、口から毒の霧を吐いた。それは彼女に直撃し、少し後ろにいたアレスとセレーネにも当たった。唯一無事だったのは、彼らとかなり離れた所にいたキャンサだけだった。




