大丈夫ですか
メスのウォータースパイダーは、口を開けて糸を放とうとした。しかし捕らえる前に、ネメアが先に動いた。靴の爪先のボタンを踏み、メスの顔を蹴りあげる。靴から飛び出た刃が、そいつの口を切り裂いた。
そいつは痛みで横に倒れ、足をバタバタさせた。隙ができたので、彼は走って距離を置く。クレタが着いてきて、「このまま出口までむかいましょう」と言った。
メスの住む洞穴を出ると、湖の水で糸を洗い流し、拘束されていた男性を解放した。彼は衰弱して、歩けるような状態でなかったため、ネメアが背負っていくことにした。
二時間後。三人は洞窟を出て、濡れたネメアの服を乾かすために、焚き火を始めた。
ネメアは焚き火に近づき、男性の頭を膝の上に乗せる。仰向けの彼は痩せ細っており、今にも死んでしまいそうだ。
どうにかしなければと思い、ネメアはクレタに話しかける。
「クレタさん、この人に何か食べさせてあげませんか?」
「そうね。ウォータースパイダーに捕らえられていた五日間、何も口にできていないでしょうし」
彼の提案に、クレタは大きく頷いた。
二人はアイテムボックスから、食材と調理道具を取り出し、焚き火で料理を始めた。葉物野菜と鶏のササミを一口大に切り、水を入れた鍋で煮込む。
しばらく何も食べていない状態で、いきなりがっつりした物を食べると、胃に負担がかかるかと思い、優しい味のスープを作ったのだ。
それを入れた器をネメアが渡すと、男性はゆっくりと起き上がり、彼の隣に座って受け取った。震える手で匙を持ち、一すくいして口に運ぶ。
彼は骨張った手をいそいそと動かして、僅かな時間でスープを平らげた。完食すると、汚れた口元を手の甲で拭い、大きく頭を下げた。
「ありがとうございます!! 助けてもらった上に、飯まで振る舞ってもらっちゃって、感謝してもしきれません!!」
男性に対し、ネメアは軽く首を横に振った。
「いえいえ。こちらこそ、メスのウォータースパイダーの糸が放たれた時、助けていただいて感謝してます。
この後、一緒に冒険者ギルドに行ってもらってもいいですか? 俺達は依頼を受けて、貴方を探しに来たんです」
「もちろんですよ! でも歩くとき、ちょっと肩を貸してくれませんか? 足がもうフラフラで」
「分かりました」
ネメアは快く承知した。
それから、彼の服が乾くまで、三人は焚き火に当たった。十分に水気がなくなると、馬車に乗って冒険者ギルドに移動する。
受付けに行くと、係員は心底驚いて、口をあんぐりと開けた。行方不明者探しの依頼で、行方不明者が生存した状態でギルドに戻ってくることは、ほとんどないからだ。
ネメアとクレタは報酬を受け取り、誇らしげに顔を見合わせる。ギルド内にいる他の冒険者達も、彼らに尊敬の眼差しを送った。
男性は、ギルド側が手配した馬車に乗せられ、医者の元へと運ばれた。二人はそれを見送り、食堂に向かう。
そこで席に着くと、ネメアはステータスカードをテーブルの上に置き、クレタと共に確認した。
『ネメア・レオ』
攻撃力 58/100
防御力 60/100
素早さ 69/100
武器を扱う技術 67/100
魔力 52/100
身体能力 62/100
クレタがネメアに笑みを送る。
「よかったじゃない。今回は、防御力と身体能力が一気に上がったわ」
「そうですね。でも、素早さは一つも上がってないです。七十まで、あと一歩なのになぁ……」
「じゃあ今度は、ヒュドラぐらい強い魔物、倒しにいってみる?」
さらっと出た彼女の発言に、ネメアは耳を疑った。
「ええっ!? 修行は焦ってするもんじゃないって、クレタさんが言ったんですよね!?」
「ウフフ、冗談よ。でも場合によっては、ヒュドラよりキツいかもしれないわね」
口に手を当てながら、クレタはクスクスと笑った。意味が分からず、ネメアは首を傾げる。この人の考えていることは、本当に見当がつかない。
二人は報酬に受け取った金貨で、少し豪華な夕食を取ったのだった。




