破廉恥です!!!
水飲み場は、何者かが削り取ったかのように、いびつに穴が開いている場所で、外にある川から流れ込んできた水が溜まり、湖のようになっている。
かなり奥まで続いているが、中に足を踏み入れ、どこから水が流れてきているのか、確かめる者はいない。暗黙の了解で、貴重な水分を汚してはいけない事になっているからだ。
湖からあと十歩の所で、二人は足を止め、光の球をゆっくり水面に近づけていった。すると、中に潜んでいたウォータースパイダー七体がワラワラと出てきて、いっせいに糸を吐いた。
クレタは目にも止まらぬ速さで床に這いつくばり、拘束を回避した。ネメアは横に体を反らし、逃れようとしたが、三本の糸に当たってしまい、左腕と胸がくっついてしまう。
ウォータースパイダー達は、先に動きを止めることに成功したネメアの方を、一点集中で狙った。七本の糸が、彼に目掛けて発射される。
彼は呪文を唱え、右手から勢いよく水を噴射し、糸を押し返した。たちまち糸はヨレヨレになり、地面に力なく落ちる。
ネメアが七体を相手にしている間に、起き上がったクレタは、頭をぶつけないよう背を曲げながら、足を開いて力強くジャンプした。彼女が着地した瞬間、辺り一帯に大きな地響きが起こり、その衝撃でウォータースパイダー達は転倒して、湖の中に落ちた。
「ネメアちゃん、今よ! 湖を殴りなさい!」
ネメアは地響きに唖然としていたが、クレタの声で気を取り直した。急いで湖の淵までいくと、右手の拳を水面に強く叩きつけた。拳の面積と同じ分だけ、あっという間にそこが凍りつく。
左腕の糸を引きちぎり、ネメアは両手で何度も水面を殴った。三体は全身を氷の中に閉じ込められ、五秒経って溶けた後、力なく浮き上がった。
彼の手が届かない所にいた四体は、クレタが倒しに向かった。一体の脚を掴み、残りの三体に思い切り叩きつけ、絶命させた。
七体のウォータースパイダーを倒し終わると、二人は足に身に付けている物を脱いで、アイテムボックスにしまった。湖の中に入るのだ。
ズボンを膝の上までまくりあげ、ウォータースパイダーの死骸を避けながら、ネメアは水に足をつけた。ふくらはぎの辺りまでが、心地よい冷たさに包まれる。続けて、クレタも湖の中に入った。
彼女の姿を見たネメアは、時が止まってしまったかのような感覚の後、体が火照っていった。彼女は膝下まであるドレスの裾をまくりあげ、太ももの位置に紐で括っていたのだ。右足が大きく露出していて、今にも下着が見えてしまいそうである。
「駄目ですよクレタさん!! 女性がそんな格好したら!!」
両手で目を覆い隠し、ネメアは顔を反らす。
「仕方がないじゃなぁい。こうしないとぉ、私、ビショビショになっちゃうわぁ」
妙に色気を含ませて、クレタは反論した。堪らなくなったネメアは、水をバシャバシャ跳ねさせて、彼女と距離を取る。
「アンッ、ネメアちゃん酷い!! そんなことされたら、濡れちゃうじゃないの」
「変な事言わないでくださいよクレタさん!!」
後ろを振り返らないようにしながら、ネメアは怒鳴り付けた。クレタはムッと頬を膨らませる。
「何も変じゃないわよ。ネメアちゃんの方こそ、ナニを想像してるの?」
「うぐっ」
ネメアは足を止めた。クレタは彼の元まで歩いていき、肩にポンと手を置いた。
「くだらない事考えてないで、早くいきましょ?」
「は、はい……」
弱々しく返事をして、ネメアはペコリと頭を下げた。それから二人は、黙って水飲み場の奥へと進んだ。