今さら戻ってこいなんてもう遅い!
互いの体温を確め合い、生きている事を実感すると、ネメアはクレタから離れた。周りを見渡すと、仲間達が自分の生還を見守っていた事が分かった。エリュマ、ケネイア、キャンサは安堵の笑みを浮かべ、ムパリは涙まで流し、オルとロスは千切れんばかりに尻尾を振っている。ヘスと大海の大精霊も近くにおり、目を細めていた。
一方死の大精霊とケルベロスは、アレス達の様子を見に行っていた。彼らは隅々まで自分の身体を見回し、魔物から人間に戻れた事を確めている。そんな彼らに、死の大精霊は一声かけた。
「良かったね、誰も殺さずに済んで」
その言葉で、彼らは深刻な事態を免れた幸運を実感した。ネメア達に討伐してもらえなければ、沢山の人を葬っていたことだろう。そうなれば、名声を得るどころか処刑されていた。最悪の場合、全人類を滅ぼしかねなかったのだ。
ホッとして、体から力が抜ける。続けてジワジワと、ネメアに対して罪悪感が湧いてきた。大罪を犯す前に止めてくれた恩人に、なんて酷い仕打ちをしてしまったのだろうか。流石に彼らは反省し、互いの顔を見合わせて相談した。
話し合いが終わると、三人は横並びでネメアに歩み寄った。アレス達の気配を感じたオルとロスは、ネメアの前に立ち塞がって唸り声を上げる。彼も警戒して様子を窺った。
三人とも気まずそうな顔をしており、アレスは手を頭の後ろに回す。アテネは目を閉じて、口元に指で罰点をつくり、魔法を使おうとしていないとアピールした。セレーネは耳を後ろに倒して体を縮め、降参だと伝える。彼らに敵意はないと分かり、ネメアは前に進み出た。
「何の用ですか」
「さっきは本当に、悪かった」
代表してアレスが謝罪の言葉を告げ、三人は深々と頭を下げた。彼らが殊勝な態度を取るとは思わず、ネメアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。さらに、顔を上げたアレスがとある頼みをしてきた事によって、彼は仰天した。
「なぁ、俺達のパーティーに戻ってきてくれないか?」
「えっ!?」
時が止まってしまったかのような感覚を抱き、ネメアは石のように固まって動かなくなった。聞き耳を立てていたクレタとキャンサも、唖然として目を見開く。辺りに水を打ったような静けさが訪れた。アレス達は返事を待ち、彼を真っ直ぐ見つめる。
3分ほど考えて、彼は大きく息を吸い込み、一思いに言い放った。
「今さら戻ってこいなんてもう遅い!」
断られるとは思っていなかったのか、アレス達はショックを受けて後ずさった。クレタとキャンサは腕を組み、拒否されて当然だとコクコク頷く。寸劇のような彼らのやり取りに、ケネイアが思わず吹き出した。彼女に連られて、他の者も笑いだす。アレス達は恥ずかしくなり、急いでその場から立ち去った。
クレタはニヤニヤして、ネメアの肩を肘でつつく。
「よく言ってやったわね、ネメア」
「うん、胸がスッとしたよ」
ネメアは憑き物が落ちたような、穏やかな笑みを浮かべた。




