行方不明者を探します
買い出しが済んだので、二人は馬車で冒険者ギルドへと移動した。クレタが受け付けで係員に、Dランクパーティー向けの依頼を受けたいと伝える。係員は、それがずらりと書かれたリストを見せてくれた。
その中でクレタは、「ブルースレッド洞窟での行方不明者探し」という依頼に目を付けた。
行方不明者探しとは、魔物の討伐にいったものの、長らくギルドに戻ってきていない冒険者を探す依頼だ。大抵の場合は亡くなっている事が多いが、それでも行方不明者の親族のために、遺体を見つける必要がある。
この依頼を受けようと思い、クレタは隣にいるネメアに声をかけた。
「ネメアちゃん、今度は行方不明者探しの依頼を受けようと思うんだけど、どうかしら? 場所はブルースレッド洞窟よ」
「えー、行方不明探しですか……あまり気乗りはしませんね。死体を見る羽目になりそうですし。それに、ブルースレッド洞窟は弱い蜘蛛の魔物しかいませんから、修行にならないんじゃないですか?」
「あら、薬草採取の依頼で痛い目を見たのに、そんな事を言うのね。安心してちょうだい。今回も、死にかけるぐらい厳しい修行になると思うから」
クレタは悪魔のように不敵な笑みを浮かべた。ネメアは全身に鳥肌が立つ。恐怖と、彼女の表情から感じられる妖艶さへの興奮が、入り交じった。
ドギマギしているネメアを横目に、クレタは係員に質問する。
「すみません、ブルースレッド洞窟での行方不明者探しの依頼の事なんですけど、行方不明の方は、何日間ここに戻ってないんですか?」
「五日間です」
「なるほど。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、クレタはネメアに話しかけた。
「よかったわ、死体を見る羽目にはならなそうよ」
「へ? 何でですか」
「理由は、洞窟に着いてから教えてあげる」
手続きを済ませ、昼食をとった後、二人はブルースレッド洞窟に向かった。入り口で、ネメアはアイテムボックスから武器を取り出した。せっかくだから、新しく買った武器を使って、武術で戦おう。
ネメアはグローブをきっちりと両手にはめた。試しに何もない場所をグーパンチで殴って見ると、空気が凍りついて、拳大の氷ができあがった。それはボトンと地面に落ち、五秒で溶けて水になった。
これは、戦闘で面白い効果を発揮できそうだ。ネメアはニヤリと笑う。余裕そうな彼の様子に、クレタは目を光らせた。
「楽しそうね、ネメアちゃん。でも、そうしていられるのも今の内よ。私達、急いで行方不明者を探さなきゃいけないんだから」
クレタに指摘されると、ネメアはピシッと背筋を伸ばした。
「分かってます。それで、ギルドで言っていた、死体を見る羽目にはならないって、どういう意味ですか? ブルースレッド洞窟にいる魔物は弱いですし、滅多な事では死なないと思いますけど、行方不明になってるって事は……」
「そこよ。ここにいるウォータースパイダーという魔物は、口から糸を吐き出して攻撃してくるだけ。しかもそれは、手で簡単に引きちぎれる。それなのに、行方不明になった。おかしな話だと思わない?
ウォータースパイダーは水の中でも活動できる魔物よ。この洞窟、冒険者達の間で水飲み場にしてる所があるわよね。川から水が流れ込んできてる場所。たまに、そこであいつらが集団で待ち伏せしている事があるの。
いくら手で引きちぎれるとはいえ、十体ほどのウォータースパイダーが一斉に糸をはけば、成人男性でもあっという間に、身動きが取れなくなるわ。
そして、糸でグルグル巻きにされた者は、ウォータースパイダーによって、ある場所に運ばれる」
「ある場所?」
唾をごくりと呑み込み、ネメアは緊張感たっぷりに訊いた。
「それは、行ってみてからのお楽しみ。やっぱり、あそこに到着してから、なぜ行方不明者が助かりそうなのか教えるわ」
はぐらかされ、ネメアはずっこけた。
「えー!!?? そりゃないですよクレタさん!!」
「ウフフ、焦らないの。さ、こんなところでグズグズしてないで、さっさと中に入りましょ」
指を鳴らし、暗い洞窟を照らすために光の球を魔法でうみだすと、クレタはネメアと手を繋いで歩きだした。彼は腑に落ちないなぁと思いながらも、彼女のように魔法で光源をうみだした。