お姉さんと買い物します 3
ちょっと上を向いて、考える素振りを見せた後、ネメアは質問に答えた。
「普通の短剣二本と、切り口から火が出る短剣一本、殴った相手を痺れさせるグローブを一組持ってます。
でも、グローブはボロボロになってきて、痺れさせる効果が弱まってるので、そろそろ新しいのに買い換えようかなぁって、思ってました」
「フムフム。魔法の威力を高める道具は?」
「持ってないです。値段が高くて、なかなか手が出なくって」
ネメアは苦笑を浮かべる。その時、クレタが横から口を挟んだ。
「魔力増強器具はいらないわよ。昨日、巨木の精霊から薬草をもらってきたから」
「ふーん、了解」
チラリとクレタの方を向き、エリュマは首を縦に振った。ネメアの方を向き直すと、メモしたことを確認し、一つ問いかけた。
「ネメアさんは武術で戦う時、手技と足技、どっちをよく使う?」
「手技です。フェイントをかけるのに足技も使いますが、パンチで殴る方がダメージを与えられます」
「じゃあ、グローブを持ってくるわね。でも、100パーセント手技じゃないってなると、足技用の武器も、ちょっとした奴があると良いかも」
メモを書くのをやめ、大きな木の棚が五つ並べられた武器コーナーへと、エリュマは消えていった。彼女を待つ間、クレタがネメアに話を始めた。
「ネメアちゃん、エリュマはね、私が前に組んでいたパーティのメンバーの中で唯一、全ステータスがマックスじゃなかったの。むしろ、かなり貧弱だったわ。だけど、彼女がいてくれたおかげで、どんなに強い魔物でも、上手く戦うことができたのよ。
彼女は自分の長所が、鋭い洞察力だって事をよく理解していたわ。そして、司令塔という役割が自分に一番合っているという答えを、見つけ出していたの。だから、魔物との戦いの中で、とても役に立っていたわ。
自分の長所が何なのか、自分で把握する事が大切なのよ。ネメアちゃんもそれができれば、もっともっと強くなれるわ」
クレタはネメアにウィンクを飛ばした。彼は微笑みながら、僅かに眉を潜める。自分で自分の長所を把握する、簡単な事のようでいて、凄く難しい事かもしれない。
話が終わってすぐに、オドオドとした足取りで、エリュマが照れ臭そうに戻ってきた。
「もう! クレタったら、私の事そんな風に言われたら、恥ずかしいでしょ!」
「いいじゃないの。ネメアちゃんに貴方の事、見習ってほしいのよ」
クレタはエリュマをなだめたが、彼女はそっぽを向いた。
エリュマはそのままの状態で、持ってきた紺色のグローブと、黒い革靴をネメアに渡した。彼女は「ふぅ」と息を吐き、説明を始める。
紺色のグローブは、殴った部分を凍り付けにする効果があるものだ。凍った所は五秒ほどで溶けてしまうが、相手の動きを止めるには、十分な効果がある。
黒い革靴は、靴の中にボタンがあり、それを足の指で押すと、爪先から刃が出てくるというものだ。
説明を終えると、エリュマはカウンターの内側に入っていった。ネメアは装備と武器の代金を払い、武器はアイテムボックスの中に収納する。そして、彼女に感謝を伝えた。
「エリュマさん、俺に装備と武器を選んでくれて、本当にありがとうございました。俺、今まで自分には個性がないと思っていましたが、探してみることにします」
「えぇ、きっと見つかるはずよ。また装備や武器が必要になったら、いつでもここに来てね。私、貴方みたいに色んな技が使える人、凄く興味があるから」
エリュマはニッコリと微笑み、キラリと目を光らせた。ネメアはペコリとお辞儀をして、カウンターから背を向ける。
ネメアとクレタは、店から出ようと、二人並んで扉の前に立った。その時、エリュマがクレタに声をかけた。
「クレタ、その子をしっかり鍛えてあげるのよ」
「分かってるわ」
目を細め、クレタは後ろを振り返った。そして、扉の持ち手を押して、外へと出ていった。