お姉さんと買い物します 1
次の日、宿屋で朝食を取った二人は、買い物をするため商店街に出かけた。買おうと思っているものは、食料とネメアが使う装備や武器だ。
まずは食料を買いにいった。この商店街には、調理済みの料理の缶詰を売っている大きな店があるため、ネメアはそこにいくのだろうと思っていた。冒険者の食事といえば、それが定番である。
だが、クレタが入っていったのは、精肉店だった。彼女に続いて店に入ったネメアは、不思議そうに尋ねた。
「あの、クレタさん。どうして肉屋に来たんですか? 俺はてっきり、缶詰屋に行くのかと思ってました」
「森の中で言ったでしょ、食事もステータスに関わってくるって。缶詰だとどうしても、栄養バランスが片寄ってしまうわ。それに、油分の多いものがほとんどだもの。強い体をつくるためには、自炊が大切よ」
質問に答えると、クレタは店主に鶏の胸肉の塩漬け六つを注文した。それからネメアの方を振り向いて、お願いした。
「私は鶏の胸肉を買うから、ネメアちゃんは鶏のささみ二袋を買ってちょうだい」
そう言って、クレタは鶏のササミを燻製にしたものが四つ入った麻袋を指さした。ネメアは彼女の頼みを承知して、アイテムボックスを召喚し、そこから硬貨の入った袋を取り出す。
店主に注文し、頼んだものが来るまで、ネメアはクレタの背を見ながら考え事をした。
食事の栄養バランスなんて、考えた事がなかった。冒険者達の間では、少しでも早く依頼を達成するために、食事の時間を短縮するべきだと考えられている。だから、みんな食料を缶詰で済ませていた。
そんな常識に当てはまらないからこそ、クレタさんは全ステータスがマックスなのかもしれない。ネメアは自分の考察がしっくりきて、心の中でうんうん頷いた。
肉を買い終えると、次は青果店に向かい、葉物野菜二束と、オレンジを三つ買った。その次に乳製品を取り扱っている店で、チーズを一塊買った。これで、食料の準備は万端だ。
今度はネメアの装備と武器を買うため、商店街からあまり人気のない町に移動した。クレタの知り合いが営む武器屋があるらしく、彼女がそこを訪ねてみようと提案したのだ。
洒落た文字で、「武器屋」と書かれた看板を屋根に取り付けた、小さな木造の家の扉を、クレタが開ける。彼女がネメアを連れて入ってきたのを見ると、店主の女性は肩を跳ねた。
「どうして、貴方がここに来たの!?」
カウンターに手をつき、店主は体を前に乗り出した。クレタはネメアの肩に手を置き、言葉を返す。
「この子にピッタリの、装備と武器を選んでもらいに来たのよ。あんたの、人に合った装備や武器を見つける目は、格別だもの」
返答を聞き、気が動転していた店主は口許を緩めた。カウンターを出て、身に付けている青色のエプロンの紐をギュッと結び、ショートヘアーにした群青色の髪を、耳にかける。ペコリと頭を下げて、挨拶をした。
「いらっしゃい、クレタ。それから隣の方もようこそ」
店主がニッコリと笑うと、クレタはネメアに彼女の事を紹介した。
「ネメアちゃん、紹介するわね。彼女の名前はエリュマ・トクソテス。私とパーティーを組んでいた、仲間の一人よ。司令塔として活躍していたの」
『司令塔』とは、魔物と戦うときに作戦を考えたり、指示をだしたり、適切な装備や武器を見極める役職だ。戦闘には不向きだが、知識が豊富で頭の良い者が務める。
クレタは次に、ネメアをエリュマに紹介した。彼は自分の弟子であり、全ステータスをマックスにする特訓をしているのだと伝える。するとエリュマは、ネメアにステータスカードを見せてほしいと頼んだ。
彼のステータスを見て、エリュマは口を手で覆った。驚いているのか、それとも嘲笑を堪えているのかは分からない。唾をごくりと呑み込んで、彼女は大声で叫んだ。
「なんて面白いステータスなの!! こんなにまんべんなく割り振られた数値、今まで一度も見たことがないわ!!」
鼻が触れそうなほどネメアに近づき、エリュマは彼の手を握る。
「ネメアさん、色々と話を聞いてもいいかしら?」
ネメアはエリュマの迫力に圧倒されながらも、大きく頷いた。