先を超されたくないんです
アレスさん達がもしも依頼を達成したら、俺はまた馬鹿にされてしまう。追放して正解だったと言われるかもしれない。
額に汗をかきながらクレタに目線を送り、ネメアは焦り混じりに尋ねた。
「クレタさん、次はどんな事をするんですか?」
爪先から頭の天辺までネメアの姿を目で辿り、クレタは笑顔で答える。
「まずは服を買いにいきましょ。そんなボロボロの格好のままでいたら、みっともないわ」
「いや、そうじゃなくて。どんな依頼を受けるんですか?」
「そうねえ、何がいいかしら」
顎に手を当てて、クレタは上の方を見た。やや間があって、彼女は首を横に振った。
「思い付かないわ。とりあえず今日は、ゆっくり休みなさい。明日は買い出しに行きましょ。修行は急いでやるものじゃないわ」
「…………そうですね」
ネメアは浮かない顔をして、チラリと受付けの方を見たが、クレタと共に冒険者ギルドを出た。
それから服屋に立ち寄って、新しい上着とズボンを買い、それに着替えた。店には入らず、外でネメアが買い物を終えるのを待っていたクレタは、出てきた彼を見てクスリと笑う。
「ネメアちゃんったら、気合い入ってるわね。丈夫な牛の革のジャケットに、レザーパンツだなんて」
「アレスさん達に、負けたくないので」
眉を上げ、ネメアは勇ましい顔になった。闘志がみなぎり、右手は拳をつくっている。しかしクレタはそれを見て、笑みを消した。
「アレスさんって言うのは、貴方を追放した意地の悪い男の事よね。あいつらより強くなりたくて、焦ってしまう気持ちはよく分かるわ。だけどそれじゃあ、貴方も同類になってしまうわよ。
休むときはしっかり休んで、冷静になる時間をつくる。そうしないと、考え無しに突っ走って、危険な目に遭ってしまうわ」
忠告されて、ネメアは俯いた。クレタさんの言っていることは正しいけれど、追放された悔しさを乗り越えるためには、早く強くならなくちゃいけない。アレスさん達に、先を越されたくないんだ。だから、今すぐにでも強い魔物を倒しに行きたい。
納得できていないネメアに、クレタは一言いった。
「急いで叩いた剣よりも、時間をかけて叩いた剣の方が、上質なものになるのよ」
目を大きく開けながら、ネメアは顔を上げた。胸の奥に、爽やかな風が吹き抜けた気がした。
指先に込めていた力が抜け、ネメアが落ち着いたと分かると、クレタは彼の腕を掴んで歩きだした。
「さ、夜ご飯にしましょ。美味しい料理を出してくれる宿屋を知ってるの。今夜はそこに泊まるつもりよ」
「分かりました。部屋は別々にしますよね?」
「あらぁ、それじゃ寂しいわ。一緒の部屋に泊まりましょ。でも、夜中こっそり手を出しちゃ駄目よ」
「し、しませんよ、そんなこと!!」
ネメアは耳を真っ赤にし、大声で否定した。それでも、宿屋へと向かう道中、内心ワクワクが止まらなかった。ついに添い寝できるのではないかと期待する。
だが、泊まった部屋には離れた間隔で二つベッドがあり、結局ネメアの望みは叶わなかったのであった。




