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首を回さないでください

 ヒュドラは、四方に生える首を3本ずつ振り回しながら迫ってきた。激しく首を回しているので、攻撃を仕掛けにいったら、体を弾き飛ばされてしまうだろう。首の動きを止めない事にはまともに戦えないと判断したネメアは、その方法を考え始めた。木の根を使った拘束は、すぐに引きちぎられてしまうだろう。30秒で消える代わりに何をしても千切れない縄を召喚することもできるが、首に巻き付けるのがとても難しい。


 そうこうしている内に、ヒュドラがあっという間に目と鼻の先まで来てしまった。今は距離を取るのが最優先だ。ネメアは背を向けて走り出した。他の三人も彼に続いた。そいつに追いかけられてぐるぐると走り回りながら、クレタが皆に話しかけた。


「ねえ、あいつにどうやって攻撃しようかしら? あれじゃ近づくことすらできないわ」


 彼女の問いに、まずはネメアが答えた。


「俺、取り合えず首の動きを止めるべきだと思うんです。だけど、良い方法が思いつかなくて。木の根じゃ千切れちゃいますし、縄も巻き付けるのが大変じゃないですか」


「私達が昔ヒュドラを倒した時は、粘着性のある液体を上からかけて、首を動かせないように固定したな」


 ケネイアの話に、ネメアは顔を明るくした。


「なるほど、その手がありましたか! 粘着性のある液体を召喚する魔法ってありましたっけ?」


「ないよ。そういう液体は冒険者向けのお店で買わないと駄目だね」


 暗い声でキャンサが答えた。ネメアはがっくりと肩を落とす。


「そんなぁ。じゃあ首をくっつけるのは無理なんですかね……」


「ネメアちゃん頑張って考えて。貴方の洞察力には何度も助けられてきたわ。今回も頼りにしてるわよ」


「あぁ。以前ゴーレムを討伐した時も、君の作戦のおかげで無事に勝利を収めることができた。私も期待しているよ」


「私はネメア君のことよく知らないけど、オリーブから、君は頭がよく回る賢い子だって聞いたよ。伝説の冒険者のオリーブが認めた君なら、きっと良い作戦を立てられると思う」


「皆さん……! それに、姉さんがそんな事を言ってたなんて!」


 励まされたのが嬉しくて、ネメアは強張った筋肉が緩み、頭の回転が速くなった。走り回りながら視界の隅に入っていた氷の壁から、アイデアが浮かんできた。


「思いつきました! キャンサさん、ヒュドラの首と首の間に、氷の柱を召喚する事ってできますよね?」


「できるけど、それでどうやってヒュドラの首の動きを止めるの?」


「俺がまず、水を出す魔法と火の玉を出す魔法を同時に使って、ヒュドラにお湯をかけます。そしたらヒュドラの体表の温度が上がりますよね。そこに氷の柱を召喚すれば、氷は体表の温度で溶けますが、まだまだ冷たいので、水が凍って肌とくっつくと思うんです」


「なるほど。氷を素手で触ったら手がくっついちゃう事があるけど、それを応用しようってことだね。良い作戦だと思う」


「ありがとうございます! 俺達が魔法を使う間、クレタさんとケネイアさんはヒュドラを惹きつけてくれませんか?」


「了解よ」「あぁ」


 クレタとケネイアは足を止め、ヒュドラの方を振り返った。ヒュドラは動きを止めた二人に対して、回転する首をぶつけようと突っ込んできた。クレタは拳で、ケネイアは剣さばきで首を押し流し、攻撃に耐えた。二人が攻撃を受けている隙に、ネメアとキャンサは壁際まで逃げて呪文を唱え始めた。


 ネメアは口で水を出す魔法の呪文を唱え、頭の中で火の玉を出す魔法の呪文を唱えた。これらはそれほど難しい魔法ではないため、10秒ほどで唱え終わり、ヒュドラの頭上にバスケットボールサイズの火の玉が出現して、さらにその上から滝のように水が降り注いだ。お湯をかけられたそいつは、中央に生えている回していない2本の首を彼の方に向けた。


 自分達から意識を反らしたと察知したクレタとケネイアは、即座にネメア達の方へ視線を向けた首の前に移動した。二人は飛び上がり、クレタは顔面に拳をめり込ませ、ケネイアは素早く剣を突き出し、それぞれ攻撃を食らわせた。その直後、二人は長い首に体を弾き飛ばされてしまったが、受け身を取り、すぐに体勢を立て直した。ヒュドラの意識は再び彼女達の方へ向いた。


 ネメアがお湯をかけてから一分後。キャンサも呪文を唱え終わり、ヒュドラが回している12本の首の間に氷の柱が召喚された。ネメアの狙い通り、ヒュドラの首は氷の柱に張り付いて、動きを止めることができた。攻撃のチャンスだ。クレタは首の根元に飛び込んで、中央の2本の首の喉を殴り、毒ガスを吐けないようにした。ケネイアは目の前にある首を上から縦に切り裂いた。切り口にネメアが火の玉を飛ばす。彼は後の事を考えて、火の玉を14個召喚しておいたのだ。


 火の玉によって、焼き切った首の周辺の氷の柱が少し溶けてしまう。ヒュドラは多少動かせる1本の首をケネイアに向けて、毒ガスを吐こうとした。そこへ首の根元から飛び出したクレタが、足を高く上げて蹴りを食らわせ、それを阻止した。彼女が喉を潰した首をケネイアが切り裂き、ネメアが火の玉で切り口を焼く。この繰り返しで、氷の柱が溶けるまでに5本の首を潰すことができた。

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