ヒュドラと戦います
ヒュドラの眼前には、恐怖で体が動かなくなり、逃げられずに縮こまっている女性がいた。キャンサがヒュドラの足元に刺々しい岩を召喚して足止めし、ネメアがその人を抱き上げて、素早く建物の陰へ連れていった。四人は他に逃げ遅れている人がいないか周囲を見回し、いないことを確認したため、戦闘態勢に入った。
ヒュドラが頭突きでキャンサの召喚した岩を破壊し、四人に向かって突進してきた。ネメアは呪文を唱えて複数の太い木の根を召喚し、自分達の元へやってきたそいつを拘束した。魔力を増幅させる薬草のおかげで、いつもより魔法の効果が強くなっている。ヒュドラは十八個の頭で木の根に噛みつき、引きちぎろうとし始めた。
ヒュドラが木の根に気を取られている隙に、キャンサは周囲に危害が及ばないよう、辺り一帯を氷の壁で囲むことにした。目を閉じて意識を集中させ、長い呪文を唱え始める。一方クレタは攻撃を仕掛けることにした。助走を付けて、一本の首の喉元を爪先で蹴り上げた。ブツンと音を立てて喉が潰れ、その首は毒を吐けなくなった。
喉を潰された首はクレタを睨み付けた。その近くに生えている3本の首も木の根を齧るのをやめ、彼女に視線を向ける。4本の首は彼女に噛みつこうと、素早く首を伸ばした。
彼女はバク転して一旦攻撃を交わした後、今度は前方に回転飛びをし、両足で2つ頭を踏みつけた。残ったもう2つの頭が顔面に毒ガスを吹き付けてきたが、息を止めて両腕の拳を突きだし、額にパンチを食らわせた。
クレタの攻撃が効き、4本の首は意識朦朧としながら虚空をグネグネと彷徨った。その隙に、ケネイアが長剣を払い上げて4本の首を同時に切り落とした。二人はその場からサッと退き、ネメアが呪文を唱えて4本の火柱を出した。切り口は焼ききられ、残りの首は14本となった。
さっそく首の数を減らすことができ、好スタートを切れたかに思えた。しかし、ヒュドラはネメアが召還した木の根を噛みちぎって、拘束を解いてしまった。そいつは14本の首を四方八方にもたげ、毒ガスを噴射した。辺りに高濃度の毒ガスが充満し、ネメア達は咄嗟に息を止めたものの、全身が痺れてその場に倒れてしまった。
ネメアは早く仲間と自分を回復しなければと、頭の中で何度も回復魔法の呪文を唱えた。体の痺れは徐々に治まっていったが、自分達が戦えるほど回復する前に、ヒュドラがズルズルと身体を滑らせて逃げ始めてしまった。避難している住民の元へ行かれたら不味い。
そんな時、キャンサが呪文を唱え終えたおかげで、戦いの場が氷の壁で覆われて、ヒュドラの逃げ道を間一髪塞ぐ事ができた。彼女は毒ガスで体が痺れてしまった後でも、これ以上町を荒らされてはいけないという思いから無理やり口を動かして、呪文を唱え続けていたのだ。
そのせいで彼女は毒ガスを少し吸い込んでしまい、魔法を発動させた直後、盛大にむせ返って吐血した。ネメアは慌てて、回復魔法を彼女へ集中させた。複数人を同時に回復させていると、どうしても一人に対する回復量が減ってしまうのだ。
ネメアからの回復の供給が弱まったのを感じ、クレタは自分で魔法を使って、元気に動けるレベルまで回復させた。次にケネイアの元へ行き、彼女の事も回復させてあげた。
四人が体力を回復している間、ヒュドラは氷の壁に何度も頭突きして、それを破壊しようとしていた。だが、壁はヒビ一つ入れることができない。キャンサの魔法は強力なのだ。そいつは諦めて、ネメア達の方を振り向いた。