倒れている人を発見しました
アレス率いるパーティーが、ヒュドラの討伐に挑戦する四日前。ネメアとクレタは半日かけて、以前ゴーレム討伐の依頼を受けた際に訪れた港町に来ていた。ゴーレムに町を破壊された傷跡がまだ残っているが、活気のある人々の声が聞こえてくる。
二人はケネイアを探し始めた。彼女は、いつもは絵を描いて暮らしていると言っていたので、海岸辺りにいるのではないかと目星を付けた。海は絵の題材にもってこいである。海岸に着くと、釣り人達に混ざって、キャンバスに絵を描いている人物を見つける事ができた。
「ケネイア、また貴方の力を貸してほしいのだけど、いいかしら?」
クレタが呼びかけると、ケネイアはキャンバスに落としていた視線をこちらへ向けた。彼女はゆっくりと微笑みを浮かべた。
「やぁ、クレタとネメア君、何の用かな?」
「ヒュドラの討伐に協力してほしいの」
頼みの内容を聞き、ケネイアはスッと真顔になった。
「ヒュドラ? それはまた、強力な魔物だね。ゴーレムより厳しい戦いになると思うけど、ネメア君はどれぐらい強くなったんだい?」
「これぐらいです」
ズボンのポケットからステータスカードを取り出し、ネメアはケネイアに渡した。目を通した彼女は、フフッと笑ってそれを返した。嘲笑されたのかと思った彼は、何を言われるのかと身構えたが、彼女から出てきた言葉は真逆だった。
「以前君と出会ってから、それほど時間は経っていないと思うのだけれど、随分と成長したんだね。凄いじゃないか」
「ありがとうございます!」
ネメアは花が咲いたような笑顔になった。ゴーレム討伐の時は、ステータスカードを見たケネイアは戦力外通告をしてきたので、その時とは打って変わった反応に、とても嬉しくなったのだ。
「ネメア君のステータスがあまり高くなかったら、ヒュドラ討伐に行くのはやめるよう忠告したんだけどね、これなら大丈夫そうだ。ヒュドラ討伐に協力しよう。丁度、思うように絵が描けなくて退屈していた所だったんだ」
見れば、キャンバスはまっさらな状態だった。「準備をしてくるから、君達はここで待っていてくれ」と言い、彼女は画材とキャンバスを抱えて一度自宅に戻った。自宅は海岸の近くにあるようで、彼女は10分ちょっとで戻ってきた。ゴーレム討伐の時と同じく、ピカピカと輝く鉄の鎧を見纏っており、立派な長剣を腰に携えている。こうして、ケネイアを仲間に率いることができ、三人は馬車に乗ってヒュドラの住む沼地へ向かったのだった。
長い移動時間の中で、ネメアとクレタは、これまでにあった出来事をケネイアに話した。以前は打ち明けなかったが、ネメアは自分がパーティーを追放された時の事を話した。そして今回、自分を追放した奴らより早くヒュドラを倒して、見返してやりたいと思っている事も話した。話を聞いた彼女は、「あまり無茶をしないようにね」と、一言警告したが、否定はしなかった。それから、今までの旅の事や、ヒュドラと戦う際の役割分担について話をした。
四日後。アレス達の到着から半日遅れて、三人は沼地に着いた。ヒュドラの住処へ足を進めていると、三人はピンク色の髪を二つ結びにした女性が倒れているのを発見した。クレタとケネイアは血相を変えて、急いで彼女に駆け寄った。クレタは手首に指を当て、ケネイアは胸に耳を当てる。脈拍があるのを確認すると、二人は安堵した。
「良かった、生きてるわ」
「あぁ。しかし、彼女がなぜここに?」
後から来たネメアが二人に話しかけた。
「二人とも、この人と知り合いなんですか? この人は、俺の後にアレスさん達のパーティーに入った人で、伝説のSランクパーティー、オリーブパーティーの一員だったと聞きました」
彼の言葉を聞き、二人は顔を見合わせた。すると、ネメアに聞こえないぐらい小さな声で、コソコソ話を始めた。何事だろうかと首を傾げていると、クレタがぎこちなく彼の問いに答えた。
「そうね。彼女は、その……昔、お世話になったことがあるのよ。先輩冒険者として、色々アドバイスを貰ったわ」
「そうそう。いやー、彼女は実に素晴らしい先輩なんだ」
二人の態度は怪しく、ネメアは怪訝な表情を浮かべた。だが、今は二人とキャンサの関係性について、深堀している場合ではないと感じたので、それで納得することにした。オリーブパーティーの一員だった彼女が倒れているということは、何か大変なことがあったに違いない。事情を聞くため、彼はキャンサに回復魔法をかけた。