追放した奴らに並びました
話し合いが終わると、ネメアとクレタとムパリとサンゴ礁の精霊は、漁師達の集会場を出た。その後精霊が、彼らに対してお礼と謝罪を告げた。
「皆、話し合いの手助けをしてくれてありがとう。それと……ごめんなさい。お化けクジラに貴方達を襲わせてしまって」
彼女は深く深く頭を下げた。ネメアが彼女に一つ問いかける。
「もう、あんな事はしませんよね?」
「えぇ、絶対にしないわ。私も貴方のように、怒りに任せた行動を取らず、どうすれば穏便に物事を解決できるのか、冷静に考えるようにする」
彼の問いかけに、彼女は芯の通った声でそう答えた。返答を聞いて満足した彼は、口元を緩める。彼女は改めて三人にお礼を言い、夕日に照らされて橙色に輝く海へ飛んでいった。
サンゴ礁の精霊を見送った後、三人は港へ戻った。するとそこには大勢の人々と、その中心に白くて長い髭を蓄えた、まさしく仙人と呼ぶのに相応しい装いの老人が待っていた。三人の姿を見るなり、人々は盛大な拍手を始めて、老人は右手で杖を着きながら歩み寄ってきた。
「ネメアさん、クレタさん、ムパリさん、港町の住民から話を聞きました。アンドロメダ島の危機を救ってくださり、本当に、ありがとうございます。ワシはこの島の島長です。感謝の印に、お礼の品を贈らせてください」
島長は、三人の前で深く頭を下げた。彼の後ろから秘書の女性がやってきて、三人に美しい彫刻の施された小箱を渡した。ネメアが小箱を開けてみると、そこにはハートの形をした透き通った宝石が入っていた。宝石の形から、ネメアはとある名前がパッと思い浮かび、島長に尋ねた。
「あの、これってもしかして、ライフライトですか?」
彼の問いかけに、島長はゆっくりと頷いた。
「そうです。ライフライトは貴重な宝石ですが、皆さんはアンドロメダ島の住民の命を救ってくださった英雄ですので、どうかそれをお受け取りください」
やはり、自分達が受け取った宝石はライフライトだったと分かって、ネメアは戸惑った。彼は両サイドにいるクレタとムパリをキョロキョロと見て、どうすれば良いか判断を委ねた。ライフライトが手に入れば、船の護衛の依頼を押し付けてきた悪どい受付係、ヘスの頼みを叶えられてしまう。
困っているネメアに対しクレタは、「ヘスに、なんでライフライトが欲しいのか聞いてみましょう。それで良くない返答が返ってきたら、渡さなきゃいいのよ」と言った。そして彼女は一歩前に出て、「それでは、ありがたく頂戴します」と伝えた。
それから、人々は三人に称賛や感謝の言葉を送り始め、港町は賑やかになった。その歓声を縫うように、ムパリの夫のパトスが現れた。彼を見るなり、ムパリは顔を輝かせて、ギュッと抱きついた。
「パトス! 港町の人達を避難させて、応援を呼んできてくれてありがとう!!」
感極まったムパリは、パトスの頬にキスをした。彼は瞬く間に顔を赤くして、頭をポリポリと掻いた。
「君が無事で良かった」
彼が一言そう告げると、ムパリも頬を薔薇色に染めて、クフクフと嬉しそうに笑った。
夫婦だけの特別な時間が流れている間、ネメアはクレタと共にステータスがどれだけ成長しているのか確認する事にした。
「クレタさん、俺、ステータスカードがどれだけ成長したか見てみます」
「えぇ、そうしましょう。きっと大きく成長しているはずだわ」
『ネメア・レオ』
攻撃力 80/100
防御力 80/100
素早さ 84/100
武器を扱う技術 82/100
魔力 80/100
身体能力 83/100
「うわぁ凄い!! 全てのステータスが80台に突入しました!!」
「おめでとうネメアちゃん!!」
喜びのあまり、二人もまた互いを抱きしめあい、その場でピョンピョン跳び跳ねた。クレタから腕を離すと、ネメアは目に涙を浮かべた。
「やった……! これで、俺を追放したアレスさん達に、ステータスが並んだんだ! もう、俺のステータスは平凡じゃないんだ……!」
追放された日の悔しさ、今日までのクレタとの厳しい特訓の日々を思い返し、彼は感涙を流した。人は本当に嬉しい時、喜びを通り越して涙が出てくるのだと彼は思い知った。そんな彼の涙をクレタが指で拭ってやり、再度包容した。
「本当におめでとう、ネメアちゃん」
「グスッ、クレタさんが俺の事を拾ってくれたから、俺は強くなれたんです。全ステータスをマックスにするまで、これからもよろしくお願いします」
「もちろんよ。今後とも、貴方の成長が楽しみだわ」
ネメアとクレタは、初めて会った時のように、いや、その時よりも強く固く、握手をしたのだった。