脅威は去りました
目を攻撃されてビチビチと暴れているお化けクジラを見て、ルーゴが集まった応援に声をかけた。
「皆、あいつを押さえ付けるんだ!!」
彼を含めた10人の応援は、お化けクジラの全身に散らばり、力の限り押さえ付けた。
「ネメア君、クレタ君、今の内に!」
「はい!」
ネメアは、お化けクジラの腹の横に落ちた如意棒を拾い上げ、棒高跳びをして腹の上に乗った。それを木の根で拾い上げ、向こう側にいるクレタに渡した。彼女もまた、棒高跳びで腹の上に乗る。如意棒を回収すると、どこを攻撃するか話し合った。
「クレタさん、どこを攻撃しに行きますか?」
「頭を狙うわ。止めを刺しに行くのよ。練習していた"あの技"を使う時が来たわ」
「なるほど、了解です!」
打ち合わせが終わると、二人はお化けクジラの顔目掛けて走り出した。それを見たサンゴ礁の精霊は顔を真っ青にし、二人の行動を止めようとする。
「やめて! お化けクジラを倒すことは、私が許さないわ!」
彼女は二人を妨害するため、お化けクジラの元まで飛んで行こうとした。しかし、頭上から飛んできた何者かに捕まって、遥か上空へ連れ去られてしまう。これでは魔法の攻撃が届かない。上を向くと、ムパリが足で肩を掴んでいるのが分かった。
「貴方の相手はあたしよ!」
「離せ!」
ジタバタと暴れるサンゴ礁の精霊の肩に爪を食い込ませ、彼女は鷹の如くその場を旋回し始めた。サンゴ礁の精霊は振り回されて、妨害するどころではなくなった。
一方地上では、ネメアとクレタがお化けクジラの首元に辿り着いていた。
「さぁネメアちゃん、やるわよ!」
「はい!」
クレタは手を組んで腕を前に突き出し、ネメアは腰を屈めてジャンプをする時の姿勢を取った。しかしその時、背後でお化けクジラが顔を上げて、口を大きく開ける気配がした。
咄嗟に、ネメアは靴の中にあるボタンを踏んで、爪先から刃を出し、お化けクジラの口の裏を蹴り上げた。そいつは痛みで咆哮を上げる。足を噛まれないよう、彼は即座に靴を脱いだ。危うく激流攻撃を食らう所だったので、それを阻止した彼に、クレタは感激した。
「ありがとうネメアちゃん! 助かったわ!」
「いえいえ。クレタさんが鍛えてくれたお陰です! 今度こそ連帯攻撃をしましょう」
気を取り直して、ネメアは腰を屈め、クレタは腕を前に突き出した。ネメアはクレタの腕の上へ飛び乗り、彼女は腕を思い切り振り上げて、彼を打ち上げた。
「伸びろ如意棒ー!!」
彼が叫び声を上げると、両手で握っていた如意棒が5メートルの長さになり、それをお化けクジラの頭に突き立てた。なかなかに強いダメージが入り、そいつの頭にたんこぶができる。ただ、止めを刺すには至らなかった。
それでも問題はない。如意棒から手を離したネメアは、右手に拳をつくり、左膝を付き出した。クレタもまた、飛び上がって彼と同じポーズをとる。二人の膝蹴りが同時にお化けクジラの頭にヒットし、続けざまに二つの拳がめり込んだ。ボキッという音がして、そいつの頭蓋骨が打ち砕かれる。
「ギャオオオオオン!!!」
鼓膜を突き破るような断末魔の悲鳴を上げ、お化けクジラは絶命した。まともにその声を聞いた二人は、あまりのうるささに視界がぐらりとよろめいたが、回復魔法を使って持ち直した。これで、アンドロメダ島への脅威は去ったのだった。