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下半身は任せてください

「よし、これでお化けクジラに攻撃を仕掛けられるね」


 ムパリは痺れて動きの鈍くなったお化けクジラを見て、目を細めた。


「あの水浸しの砂浜じゃ動きにくいだろうから、クレタとネメアさんは、直接お化けクジラの体の上に乗って戦った方が良いんじゃないかな。あたしが二人をそこまで運ぶよ」


「そうね、頼んだわよムパリ」


「はい、お願いします」


 二人が自分の提案に納得したため、ムパリはまずクレタを運ぶことにした。翼を羽ばたかせ、彼女の背中を足で掴み、お化けクジラの元へと飛んでいく。彼女たちが自分を攻撃しに来たと分かったそいつは、前足を強く踏み込んで飛びかかってきた。痺れている分高度が低くなっているが、ムパリもクレタを運びながら飛んでいるため、避けることが難しくなっていた。クレタの頬をそいつの鋭い爪が掠める。


 ネメアはムパリが無事にクレタを運べるよう、手助けする必要があると分かった。まずは回復魔法を使って、先ほど激流を殴った時に折れてしまった指の骨を治した。それから、呪文を唱えて光の球を召喚し、お化けクジラの目元へそれを飛ばした。


 お化けクジラは光の球に興味を持ち、前足を伸ばしてそれを捉えようとした。光の球がそいつの手の中に納まりそうになった瞬間に、彼はそれを横に逸らした。お化けクジラは移動した光の球を追って、またまた前足を伸ばす。そうすると、ネメアはまた手の届かない位置に球をずらした。


 お化けクジラの上半身はライオン、ライオンはネコ科の動物である。ネメアは、猫が光るものに反応して捕まえようとするという習性を知っていたため、それを利用できるのではないかと考えたのだ。下手にお化けクジラを攻撃すれば、激流攻撃が飛んできてしまうため、こうして気を紛らわせるのは良い作戦と言えるだろう。


 光の球にお化けクジラが夢中になっている間に、ムパリはクレタの移動を終わらせることができた。クレタが光の球をお化けクジラにじゃれつかせる作業を交代し、ネメアの移動も完了した。彼はズボンのポケットから如意棒を取り出し、それを160センチメートルの長さに伸ばした。本格的な戦いの始まりだ。


「私はお化けクジラの上半身を攻撃するから、ネメアちゃんは下半身をお願い」


「了解です」


 ネメアとクレタは、攻撃する範囲を分担した。さっそくクレタが、お化けクジラの背骨を左右の足で強く叩き始めた。ドコドコドコと、かなり激しい勢いで攻撃している。痛みを感じたお化けクジラは後ろを振り向き、口を開けて激流を発射する準備をした。


 そんなお化けクジラの頭の上に、鋭い何かが降り注いだ。頭の後ろに、金属の羽が何枚か突き刺さる。ムパリが魔法で自分の羽を金属に変え、それを飛ばしたのだ。抜けた分の羽は回復魔法を使って再生し、また金属に変えた。目にもとまらぬ速さで羽ばたき、それを発射する。


 次の攻撃はお化けクジラが前足を使って振り払い、防がれてしまった。激流攻撃をするための準備も整い、空の上のムパリ目掛けて、強烈な水流が発射される。彼女は攻撃をやめて、燕のように素早く身を反転し、激流を避けた。そいつは顔を動かし、水流を当てようと彼女を追うが、逃げ切られてしまう。


 それならばと、お化けクジラは尾びれを海面に打ち付け、水しぶきを飛ばし始めた。ムパリはまたまた方向転換して水しぶきを避けるが、彼女の移動した方向にそいつは顔を向けていて、激流が放たれてしまう。これでは八方塞がりだ。彼女は何とかして逃げ回るが、このままでは飛び疲れてしまうだろう。


 そんな時、尾びれ側の攻撃がいくらか止み始めた。ムパリがそちらの方へ逃げてくると、ネメアがお化けクジラの尾びれを連続で如意棒で突き、動きを止めようとしていることが分かった。彼がこうして尾びれを抑えていてくれれば、顔の方へ回って激流を避けつつ、金属の羽で攻撃できると彼女は感じた。


 こうして、顔はムパリ、上半身はクレタ、下半身はネメアが攻撃するという、完璧な戦闘態勢が構築されたのだった。この状態を維持できれば、応援が駆けつけるまでもなくお化けクジラを倒すことができるだろう。


 しかし、現実はそんなに甘くない。お化けクジラにある程度ダメージが入り、口から発射される激流が弱まって、尾びれの動きが遅くなってきた頃、海の向こうから何者かがやってきた。それを最初に発見したのは、空を飛んでいたムパリだった。


 海の向こうからやってきた者は宙に浮いている。サーモンピンク色の髪は海藻のようにうねり、藤色のマーメイドドレスを着ていた。その者はお化けクジラと戦うネメア達をギロリと睨みつける。ムパリはその者の方へ飛んでいき、話しかけた。


「貴方はサンゴ礁の精霊ね。お化けクジラは貴方が産み出したの?」


「そうよ。アンドロメダ島の愚かな漁師達が、私の身体、サンゴ礁を漁師網で傷つけたの! だからお化けクジラに島を襲わせて、頭を冷やさせるのよ。二度と私のサンゴ礁がある海域で漁ができないようにね。だから私の邪魔をしないで!」


 声を荒らげ、サンゴ礁の精霊は右手を水平に振った。すると、お化けクジラがジタバタと暴れだし、ネメアとクレタは背中から振り落とされ、水没した砂浜に落ちていった。サンゴ礁の精霊は、お化けクジラの身体の痺れを、魔法で取ってしまったのだ。ムパリは顔を真っ青にし、ネメアとクレタの方へ飛んでいった。


「クレタ、ネメアさん!」


 痺れが取れて楽に体を動かせるようになったお化けクジラが、水に沈んだ二人に飛びかかった。あの攻撃を避けることは不可能だろう。ショックな光景を目にし、ムパリは息を呑んだ。

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