俺は認められました
肉に刃が刺さる、確かな感触があった。しかし、顔面に向かって強い風が吹き付けてきて、ネメアは思わず目を瞑ってしまった。短剣の柄を掴む手が緩む。
巨木の精霊は、ネメアの頭の少し上まで、サッと飛び上がった。そして、彼の額に手の平を向け、戦いはもうやめにしようと合図を送った。
「合格じゃ。まさかここまで戦える奴とは、思わなかったわい。さすが、クレタの弟子なだけはある」
精霊がそう告げると、ネメアは顔を輝かせた。勝った、勝ったんだ!! 不要物扱いされ、パーティーを追放された俺でも、十分に戦うことができた!!
喜びを露にするネメアに、精霊は話を続ける。
「儂はな、あそこに生えている薬草を、お主が使っても平気かどうか、試していたんじゃよ。あの薬草は効果が強くて、弱い者が使ってしまうと、暴走してしまうんじゃ」
「なるほど、そうだったんですね。それじゃあ、薬草を摘みにいってもいいですか」
「よいぞい。ただし、取りすぎないようにな」
勝者を称える笑みを浮かべながら、精霊は頷いた。ネメアは、折れた左手の指の骨を回復魔法で再生させ、薬草が生い茂っている場所まで走っていく。
彼の背中を見つめながら、クレタもそこまで歩きだした。その途中、彼女は精霊に声をかけられた。
「ククッ、あの小僧を見ていると、ひよっこだった頃のお主を思い出すわい。初めて会った時は、仲間と四人がかりで挑んで、儂に惨敗しておったのぉ」
「あの時は、本当に酷い目に遭わされたわ。先輩冒険者パーティーの人達から、おすすめの薬草採取場所を教えてもらって、ここに来たのよ。
そしたら、いつまで経っても薬草は見つからないわ、貴方のもとまで辿り着いたら、ボロ負けしたわ、散々だったわ」
思い出話をして、二人は顔を見合わせると、クスッと笑った。
「今じゃ、事あるごとにここを訪れて、薬草を貰ってるわね」
「あぁ、そうじゃの。今回は何のために、あの薬草を使うんじゃい?」
「ネメアちゃんがヤバくなった時のための、切り札かしら」
問いに答えると、クレタはネメアの元まで走っていった。
「ネメアちゃん、薬草採った?」
「はい、五本ほど。でもこの薬草、全く見たことがないですね。店でも売られてないような……」
「当然よ。これは魔力のステータスを、一時的に二倍へできる、ここにしか生えない薬草なんだから。
普通の町の店に、売られていることなんてないわ。あったとしても、貴族向けの店に、ごく稀に超高額で売られている程度よ」
「えぇっ!?」
口をあんぐりとさせ、ネメアは思わず、採取した薬草を落とした。
「これ、そんなに凄い薬草なんですか!?」
「えぇ。だから、薬草採取の依頼を受けた時、採った薬草はギルド側で買い取ってもらうルールになってるけど、この薬草は渡しちゃ駄目よ。
ギルド側が、この薬草を悪用したり、適切でない業者に高額で売り付ける可能性があるもの。
この森を出たら、もう一つ別の森に入って、普通の薬草を採取しにいくわよ」
ネメアはげんなりと肩を落とした。
「うへぇ、まだ依頼を達成できないんですね」
「しょうがないことよ。でも、森を出るときはとっておきの方法を使うから、楽しみにしていてちょうだい」
クレタは怪しげに目を細めた。ネメアは小首を傾げながら小さく頷く。その後、二人合わせて20本薬草を採取し、アイテムボックスにしまった。
追記:薬草40本はさすがに回収しすぎなので、20本に直しました。