クラリッサルーム
【クラリッサルームの紹介】
悪魔系Vチューバー〝クラリッサ・シャッフルダウン〟のチャンネル。
主な配信内容はゲーム実況、歌ってみた、雑談、ASMR等。
チャンネル登録よろしくね。
『-という訳で私主催で配信イベントやるから、リサちゃんにも出て貰いたいんだけどいいかな☆』
「いや、まあ私はいいですけど…」
私の名前は倉木理紗。
〝クラリッサ・シャッフルダウン〟という名の悪魔系Vチューバーとして活動している。
「水崎ちゃんがうちの事務所と大々的に関わるの不味くない?」
私をイベントに呼びたい、と直々に連絡してくれたのは光栄だが。
ちゃんとした企業に所属する〝水崎ホエール〟ちゃんみたいな有名Vチューバーが、うちみたいな炎上、著作権違反、収益化剥奪、不適切満載の事務所のVチューバーと関わるのは不味いんじゃないかと思う。
(単発のコラボとかならともかく。)
『うん…☆ まあ、リサちゃんの事務所がアレなのは否定しない★』
だよね。
『でも、私〝水崎ホエール〟は〝クラリッサ〟ちゃんとコラボしたいんだよ☆』
「マネージャーさんとかにOKは貰ってるの?」
『うん、もちろん☆』
ならいい…、のか?
「私、水崎ちゃんみたいに真面目に頑張ってる人の足引っ張ったりしたくないんだよね」
私なんかがきっかけで炎上とかしたら申し訳ない。
そう思っていると向こうから笑い声が漏れ聞こえた。
「どした?」
『いや。相変わらずリサちゃんは真面目だな、って思って☆』
「別に普通だと思うけど」
当たり前の思考しかしていないけど。
『ファンからのツイートとかも全部返信してるよね』
「いや、流石に全部は返信出来てないよ」
目立つ応援コメントにはなるべく応えるようにしたいと思ってるけど。
『私には出来ない★』
「そりゃ、ファン数が違うからねえ」
登録者数40万人越えだっけ?
私の約3倍だ。
『ゲーム実況とかも全部自分で配信許可取ってるんでしょ?』
「それも当たり前…、ってうちの事務所の面子はみんなやってないけど。…あ、ヘラ子ちゃん以外ね」
あの子にはちゃんといろいろ教えてあげた。
『ディープシーはみんなそういうのは会社がやってくれるから、自分で配信許可取ったりはしないんだよ』
「いいなー」
時短できて。
『うちに来なよ☆』
「〝クラリッサ〟とファンのみんなに愛着があるから無理」
『だよね★』
水崎ちゃんは私の答えを予想していたみたいに苦笑した。
『話それちゃったけど、要するに事務所は置いといて私がリサちゃんの好きだから一緒にやりたい☆ って話』
上手くまとめたね。
「私を? 〝クラリッサ〟を?」
『どっちも大好きだよ☆』
モテる答えだ。
流石40万人。
「わかったわかった。予定送ってくれたら一応事務所に話通すよ」
どうせ碌に聞かないだろうけど。
『やった☆』
「他に誰呼んでるの?」
知らない人とかいたら調べておかないと。
『同じ事務所のゴス姫ちゃんとコン子ちゃんと紫暗面と蟻ちゃんと、Hzのこのみくんと烏ちゃんとギーちゃんと、O2のフォトっちと、個人Vのラコロ姉さまっ☆☆』
「顔広いなっ!」
まとめ切れるのか一人で。
「ギーちゃんはギーゼラさんだよね?」
『さすがっ☆』
よく知ってるねっ、という水崎ちゃん。
『ラコロ姉さま、っていうのだけ知らないんだけど』
個人Vにまで知り合いいるのか。
まあ、うちの事務所に私みたいな知り合いがいる以上どんな知り合いがいてもおかしくはないか。
『それは人生の半分を損してるとしかいいようがないねっ★』
「そこまで凄い人なの!?」
聞いたことすらなかったんだけど。
『ラコロ姉さまは…』
ラコロ姉さまは?
『私の運命の人なのっ☆』
…アレ、これ地雷踏んだ?
『まずお声が素敵なの☆ 地声も萌え声も笑い声も全部素敵っ☆ 話も立ち振る舞いもゲームの腕前も性格もジェントルマンis私の王子様☆ ショートの髪型も眼鏡まで美しくてっ。あっ、もちろん眼鏡を外しても凛々しいんだよ☆ なのにユーモアのセンスも溢れてて、その上優しいの☆ この前なんかねっ』
「はいはいストップストップ!」
水崎ちゃん基本的には出来た子なんだけど、好きな話題でスイッチ入ると暴走しちゃうんだよな…。
この前のクジラについて話を振って酷い目にあった。
(しかも配信だから逃げられなかった。)
『ここからがいいとこなのに☆ 先ず和服に眼鏡に刀というファッションスタイルがね』
「はいはい水崎ちゃんがその人を如何に好きかは分かったから! ……今、和服に眼鏡に刀って言った?」
『言ったけど?』
その人もしかして。
「さっきのファッションってキャラの話? それとも中の人? ……それともどっちも同じようなファッションしてるの?」
『それは企業秘密です…、といいたいけど多分想像の通りです。口外しちゃ駄目だよ。しないと思うけど』
うん、それは勿論。
『ひょっとして知り合い?』
いや。
「一回だけ会ったことがある…、かもしれない」
向こうは覚えてないかもだけど。
『それは運命だねっ☆ いや、ラコロ姉さまは私の運命の人だけど』
「別に誰も盗らないってば」
♪
[一年前の夜]
「直接客の相手しないでスパチャ投げてもらえて稼げるなんて楽でいいね。しかも顔出ししないでいいし」
まあ、どうせ長続きはしないだろうけど。
煙草に火を点けようとして電柱の下に人が倒れているのに気がついた。
「面倒臭っ」
でも、見ちゃった以上放っておく訳にもいかない。
声をかけて、意識がなければ救急車を呼ぼうと思い近くに寄った。
「大丈夫ですか…、ひっ!?」
倒れていたおじさんには顔がなく周囲には黒い靄のような大きなクモが数匹群がっていた。
クモが一斉にこちらを見た。
「…っ」
逃げないとっ。
「痛っ!」
走ろうとして躓いた。
慣れないヒールを履いてたせいだ。
慌てて振り返るとまさに一匹のクモが私に飛び掛るところだった。
「(あ…、私死ぬのか)」
こんなに呆気なく。
でも、人なんてそんなものなのかもしれない。
おばあちゃんが死んだのもあっという間だった。
お姉ちゃんが出て行ったのも。
お父さんとお母さんが離婚したのも。
「(こんなことならもっとちゃんと生きるんだったな…)」
-シャンッ
「大丈夫かい? お姉ちゃん」
気がつくとクモは全て両断されていた。
「うん、まあ不運だったねぃ。でも、あそこのおじさんよりは運が良かった。助かった命大事にしなよ」
和服を着た眼鏡の女性は刀を煌かせてシニカルに笑った。
♪
一年前の出来事以来、私は雑に生きるのを止めた。
(ついでに煙草も止めた。)
大学行かなかったのはしょうがないけど、たまたま合格していたVチューバーの仕事を私なりに真面目にやることにした。
「これが〝ラコロ〟か」
水崎ちゃんに教えてもらったチャンネルに映るキャラクターは一年前に私を助けてくれた女性と瓜二つの見た目をしていた。
…正確には覚えてないけど、声も多分一緒だ。
多分、あの人だ。
「水崎ちゃん風に言うなら〝運命〟かな。…っていうかゲーム上手っ」
なんでVチューバーやってんだろう。
………。
そういえば、あの後怖くなって女性から逃げ出して、家に帰った後で面接資料入った鞄を忘れたのに気がついて。
でも、翌日には鞄が玄関に届けてあったんだっけ。
…開けてなかったVチューバーについての資料が開いてたな。
あの時は気づかなかったけど、ひょっとしてあの人が開けて読んだ?
ラコロちゃんねるの開設日は…。
「一年前か」
やっぱり。
だとすると、この人がVチューバーやってるのは私を助けたせいなのかもしれない。
「…あはっ」
異世界の人だと思っていた人の人生に大きく影響を与えていたことと、これからその人と会えることが可笑しくて、私は笑った。
【クラリッサルーム】
☆クラリッサ・シャッフルダウン
本名:倉木 理紗-クラキ リサ-
性別:女性
年齢:20歳
身長:157cm
好き:マニュアルを読むこと、ファンのみんな
嫌い:手抜き(自分限定)
苦手:蜘蛛
家族:父、母、姉
趣味:コメント返信、エゴサーチ、コンテンツについての勉強
所属:フルールリリス
配信歴:1年
登録者:13万2900人