彼を描く
初投稿習作です。
薄暗い部屋の中、ロウソクの灯りを頼りに線を引く。
部屋の外からは歓声が聞こえる。
それは勇者様を称える歓声。
魔王を倒して、平和になった世界を喜ぶ歓声。
明るい陽の中で皆が喜ぶのを尻目に、私は薄暗い部屋で色を塗る。
魔王が倒されたって聞いた時、私も初めは喜んだ。
もう怖い思いをしなくて済むんだって。
私の絵を褒めてくれたあの人が帰ってくるんだって。
あの人に見せたくて、私は何枚も絵を書いた。
綺麗な絵。可愛い絵。柔らかい絵に猛々しい絵。
また褒めて欲しかった。
また私の絵を見て笑って欲しかった。
でも、あの日。勇者様が帰ってきた日、その中にあの人は居なかった。
戦いの中で死んでしまったんだって聞いた時、私は今まで描いた絵を引き裂いた。
歓声が聞こえる。
明るい陽の中で平和を喜ぶ声がする。
私は薄暗い部屋の中で、ロウソクの灯りを頼りに還って来ない彼を描く。
良いことがあった日に、皆が皆、幸せなわけじゃないんですよね。
これはそんなお話でした。