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閑話 ミィミの現状


 獣人に呼び止められる。

 もしかして、さすがにバレたのか?

 いや、バレるも何も……ただ挨拶をして、ペットを見せただけだ。

 バレるような要素は――


「あなた、たしか……アンリエッタさんではなくって?」

「え?」

「あ、そうよ。そうだわ。……ほら、あたし。セザンヌです」

「せ、セザンヌ……さん?」

「ほら、前にお茶会でたくさんお話したじゃない。忘れちゃった?」


 ちょっと待った。

 もしかして俺がいま変装している獣人と、この獣人って知り合いなのか?

 猫と犬なのに仲良く茶ぁしばいてんじゃねえよ!

 ……というツッコミはさすがにおかしいか。

 とはいえ、ここはなんとかして誤魔化さなくては。

 こんな、敵の本拠地でバレて誰か呼ばれでもすれば、その時点で終わりだからな。


「す……すみません、最近目を悪くしてしまって……ごめんあそばせ」

「あら? この前はたしか、目の調子がすこぶるよくて、夜も灯が必要ないくらいとおっしゃっていましたが……」

「ま、マジですの?」

「ええ、頑張ればビームが出るかも……と」


 出るの?

 獣人って目からビーム出せるの?

 ……って、興奮してる場合じゃない。


「……そ、それは、えーっと、暗いところでゲームをし過ぎて、目を悪くしてしまったのですわ!」

「げぇむ?」


 しまった。

 ビーム(・・・)はあるけど、ゲーム(・・・)はないのか、この世界。


「えーっと……人生ゲー……人生遊戯というものをご存じ?」

「いいえ?」

「な、なら、すごろくは?」

「あ、それなら存じ上げています! あの正方形の物体をいやらしく転がして遊ぶ……」

「そ、それですわ」


 いやらしく?


「そ、それの遊び過ぎで……えへへ……ですわ」

「まぁ……! すごろくは、目が悪くなる遊びだったのですね……わたくしも、今後は気を付けなくてはなりませんわね……」

「はい。あれは悪魔の遊びですので……」

「悪魔の……それは恐ろしい……」

「はい。ということで、私はこれで……おほほのほ!」


 よし。なんとかバレずにやり過ごせたんじゃないか?

 それと、心臓の鼓動がやばい。

 この体だとあまり汗はかけないけど、緊張しすぎで口内はカラッカラだ。


「……アンリエッタさん、少々お待ちになって?」


 また呼び止められる俺。

 なんなんだよ。

 いますぐ駆け出してしまいたいが、そうすれば十中八九騒ぎが大きくなる。

 ここは付き合ってやるしかない……。


「まだなんかある……のでございまするか? セザンヌさん?」

「あの、アンリエッタさんは、どこへ行くおつもりでしょうか?」

「え?」


 ドキン。

 俺の心臓が、嫌なほうの意味で高鳴る。

 こんな事態、事前に何も話し合っていない。

 ここは素直に言っておくべきか……?


「えっと……王城の散歩ついでに、王に謁見を、と……」

「あら、そうでしたの? なら、ちょうどよかった」

「ちょうどいい?」


 嫌な予感しかしない。


「はい。わたくしも王にご挨拶を、と思っておりましたのよ」

「あ、そ、そうでございまするか……」


 最悪だ。

 俺は足元に視線を落とすと、ブラピが首を横に振っていた。


「せっかくですし、そこまでご一緒しませんこと?」

「い、いえ……その、それはちょっと都合が悪いといいまするか……」


 ブラピが首を振ったということは、ご一緒するなということ。

 だけど、どう言えばいいんだ。


「都合……ですか?」

「はい。私、じつは……他の方と連れ立って歩くと、蕁麻疹がぷつぷつ……()ぷつぷつと、出来てしまうのですわ」

「むぐむぐぅ~……!」


 足元でブラピが、リンスレットの口を塞ぐ。

 おそらくまた、性懲りもなく、俺にツッコもうとしたのだろう。


「……まぁ、それは大変!」


 セザンヌが驚いたように、開いた口に手をあてる。


「そんなふざけた持病をお持ちだなんて……ごめんなさいね。それなのにわたくしったら、ずけずけ……()ずけずけと……」


 なんかあたまに『お』をつける言い回しをパクられた。

 いや、俺は適当に貴族ぽい話し方をしているだけだけど、本当はそういう言い回しがあるのかもしれない。

 ……けど、よくわからんが、この反応、信じてくれたってことでいいんだよな?


「い、いえいえ……こちらこそせっかくの申し出を……では、今度こそ、ごめんあそばせ」


 俺はそう一方的に告げると、今度こそ、そそくさとその場から立ち去ろうとした。

 セザンヌも可哀想なモノを見るような表情で、俺を見てい――


「リンスレット」

「……え?」


 突然その名前を呼ばれ、俺の足が固まる。

 まさか、いままでのはお遊びと言わんばかりの――


「……リンスレット王女には、お気を付けてください」

「え?」


 足を止めて思わず振り向いちゃったけど……なんだ?

 このブラピの皮をかぶったリンスレットの正体がバレた……というわけではないのか……?


「あら、ご存じありませんでしたか?」

「は、はぁ……なんのことだか……」

「現在、国王によるレジスタンス掃討作戦が決行されているのです」

「あ、ああ……そうなんですの……」


 やはり知っていたか。

 ……だけど、そう考えるとかなりおかしい。

 というのも、あまりにも何もなさすぎる(・・・・・・・)のだ。

 俺もそこまで戦争については詳しくないけど、こういった時、普通は国民に注意を促したり、城の周りにたくさん兵を配備したりするはず。


 少なくとも、国全体が物々しい雰囲気であるべきなんだ。


 だけど実際は、兵士たちは城の庭で呑気に茶を飲み、セザンヌのような貴族は悠々と王に謁見しようとしている。

 地下道の爆発騒ぎも一瞬だけ野次馬が集まったが、もう誰も興味を示していない。

 本当にアレイダの言うとおり、誰もそこまで気にしていないのだろう。

 舐められているのだ。

 レジスタンスを。

 人間を。


「……では、ご自愛くださいませね、アンリエッタ様」


 セザンヌはそれだけを言うと、ぺこりと頭を下げ、そのまま歩き去ってしまった。


「……行こう、二人とも」


 俺は足元で、俺のことを見上げていた二人に声をかけた。


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