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第1話 野良人間


〝ハッハッハ……! クゥン……!〟


 ――なんだ?


 体が重い。(まぶた)も重い。

 いや、それよりもこの荒い呼吸音は……動物……犬か?

 なぜ犬がこんな至近距離で――


 ああ、そうか。

 色々と思い出してきた。

 俺は死んで、『地獄』とやらへ飛ばされたんだった。

 それで……そうだ。

 転移後に記憶を消されるとか言われてたけど、こうして問題なく思い出しているということは――


「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

「だあああああああ! もおおおおおお!」


 俺は犬を威嚇すべく、腕を振りまわしながら上体を起こし、目を開けた。


「耳元で遠吠えすんな! うっとうしい犬だ……な……?」


 絶句。

 二度見すら許されないほどの光景に、俺は、俺の目は一瞬で釘付けにされた。


「クゥン……クゥン……」


 ハゲで、デブで、全裸で、四つん這い。

 赤い首輪とリードに繋がれた四十代後半くらいのおっさんが、そこにいた。

 そしてそのリードの先、このおっさんを首輪で繋いでいる者に目を向ける。


「は」


 カラカラに乾いた声が意図せず俺の口からまろび出る。


 獣人。

 二足歩行ではあるものの、普通の人間に耳や尻尾を生やしたようなものではなく、その外見はかなり獣寄り。

 まずなによりも目を引くのが、犬の頭部にウェービーで長い金髪だ。

 さらに西洋の貴族が着ていそうなボリュームのあるドレスを着ており、その手にはリード紐が握られている。


「あら、ジョセフィーヌちゃん、どうしたザマス?」


 獣人はそう言って自身の手元、リードに繋がれているおっさんに視線を向ける。


 なんてこった。

 ジョセフィーヌ(・・・・・・・)ってツラかよ、このおっさんが。


「……いや、そこじゃないな」


 たしかにそこも気になるが、今一番気にすべきは、犬が人間を散歩させて、言葉までしゃべっている、ということだろう。


「おや、こんなところに野良人間(・・・・)が……」

「の、のらにんげん……?」


 聞き馴染みのない言葉に思わず耳を疑う。

 野良人間って、俺の事を指しているんだよな。

 今も思いきり目が合ってるし。

 ……てことはあれか?

 この世界(・・・・)では、動物と人間の立場が逆になってるってことなのか?


「……いや、正確には動物じゃなく獣人だから逆というわけでは――」

「あら、言葉を話せるのね、あなた」

「言葉って……」


 この世界の人間って言葉も話せないのかよ。

 なんてトコに飛ばされてんだ俺。


「ええ、そうザマス。こうして会話できているのですから。……もしかして、飼い主から逃げてきたザマス?」

「飼い主……」


 野良人間に飼い主……そしてしゃべれない人間か。

 なるほど、だんだんわかってきた。

 おそらくこの世界ではほとんどの人間が獣人の所有()になっており、そしてその大半が言葉を話せない。

 つまりこの世界は人間ではなく獣人が支配している世界で、人間は圧倒的に身分が下。

 というよりも、俺の世界と同じように人間は法律上モノ(・・)扱いされていると考えたほうがいいかもしれない。


「トラブルになるかもしれないし、いちおう敬語は使ったほうがいいか……」

「どうかしたザマス?」

「ああ、いえ。飼い主もなにも、そもそも、ここがどこなのかすらわかっていなくて……」

「あら可哀想。……とはいえ、外からやって来たというのも考えられないし……」

「外……ですか?」

「あら、本当に混乱しているようね」

「ま、まあ、混乱は多少してますけど……」


 いきなりこんな世界に飛ばされたわけだし、混乱するなというほうがおかしい。


「けど、ごめんなさいね」

「へ? なにが……」

「あたくし、このとおりすでに人間は飼っているザマス。貴方も面白いけど……飼い主を探すなら他を当たって頂戴」

「え、ちょっ、待っ……まだ色々訊きたいことが――」


 犬の獣人はそれだけ言うと、俺の制止は意に介さず「行きますわよ、ジョセフィーヌちゃん」と、おっさんに声をかけ、そのまま歩き出した。

 ジョセフィーヌちゃんは「ワン!」と元気よくひと鳴きすると、四足歩行でご機嫌なステップを刻みながら獣人の斜め後ろを追従し――


「夜。三番街。その裏路地に来い」


 俺にだけ聞こえる声量で、一方的にそう告げてきた。


「さんば……は?」


 しばらく呆気にとられた俺は、その一人と一匹が見えなくなるまで見送ると、現状を把握すべくゆっくり立ち上がり、改めて辺りを見渡した。


「げ」


 猫。

 犬。

 兎。

 熊。

 狼。

 鳥。

 魚。

 蜥蜴(とかげ)

 様々な、それこそ哺乳類とか鳥類とか魚類とか爬虫類が、人が着るような衣類(・・)を身にまとい通りを闊歩している。

 改めて俺はとんでもない世界に飛ばされたことを実感した。


「これが多様性(ダイバーシティ)ってやつか……」


 言っとる場合か。

 ほんのすこし錯乱状態に陥っているらしい俺は、次に景観(・・)に目を向ける。

 この世界がどの程度の文明を持っているかの確認である。


 隙間なく敷き詰められた石畳。

 均等な大きさで規則正しく積まれた煉瓦の建物。

 遊び心のない簡素な噴水。それを取り囲むように配置されているベンチ群。

 すこし遠くのほうへ目を遣ると、西洋の古城を思わせる巨大な建造物もある。


 次に俺はすこし歩いてみた。


 リードに繋がれていない人間が珍しいのか、二足歩行の人間が珍しいのか、はたまた俺の着ているスーツが珍しいのかはわからないが、道行く獣人がじろじろと俺を見てくる。

 しかし騒ぎ立てる様子や絡んでくる気配もない為、一旦無視することにした。

 そんな中、やがて獣人が多く集まる広場にたどり着く。

 そこには様々な露店があり、リンゴやオレンジ、トマトやたまねぎなど、色々な果物や野菜が売られていた。


獣人(こいつら)って、トマトとか玉ねぎとか食え……るから売ってるんだろうな」


 あと気になるものといえば肉屋だが――


「ふぅ……」


 よかった。

 ここでは(・・・・)取り扱って(・・・・・)なさそうだ。


 さて、ここまでざっと見た感じだが、どうやら文明レベルに関しては、俺のいた世界に近しいことがわかった。

 てっきり獣人ばかりだから、そこらへんに糞尿やら死体やらが転がっていて、殺伐としているのではと思ったが、そうでもないようだ。

 すくなくとも今俺がいる場所や、歩いてきた道は清潔に保たれている。

 あとは電気や上下水道が通っていればとりあえず問題なさそうだが、それはさすがに期待しすぎだろうか。


 ……いや、素直になろう。

 たとえ電気が通っており、上下水道完備でトイレにウォッシュレット機能がついていたとしても、俺はこの世界に適応できなかったと思う。

 なぜならあまりにも目がしぱしぱ(・・・・)するからだ。

 例えるなら、自分とはまったく違った価値観を持つコミュニティの中に放り込まれたような、そんな居心地の悪さを感じる。

 たしかに道行く獣人が俺に対して敵意や害意がないのはわかるのだが、それは言ってしまえば犬や猫に対してカツアゲを行う者がいないように、人なのに人として見られていないのだ。

 やはりさっきのジョセフィーヌちゃんのように、ここでは俺みたいな人間は人権がないのだろう。


 そう考えると無性に怖くなってくるが――


『夜。三番街。その路地裏に来い』


 ジョセフィーヌちゃんの言葉が、俺の脳内で力強く反芻される。

 現状、何もすることがない、出来ることがない俺としては、やはりこの言葉に従うしかないのだろう。


 現時刻は太陽(?)らしきものの傾き具合から察するに、おそらく昼過ぎくらい。

 時間的にはまだまだ余裕はありそうだが、いかんせん何もわからない。

 差し当たり、待ち合わせ場所と思われる〝三番街〟とその〝路地裏〟がどこにあるかは調べなくてはならない。


 だが、そうなってくると、問題になってくるのはコミュニケーションだ。

 さっきの犬っぽい獣人と会話ができたということは、おそらくここにいる他の獣人たちとも会話ができるということ。

 ただし、会話ができるとはいえ、話が通じる(・・・・・)とは限らない。

 俺が元いた世界においての犬猫と変わらない存在であるということは、もうわかっている。

 だから気を付けるべきは、ふとした拍子に相手の機嫌を損ねてしまうこと。

 そうなれば最悪殺されかねないということだ。

 とりわけ蜥蜴(とかげ)型の獣人なんて、武器を持っていなくてもサクッと殺られてしまうかもしれない。


 俺は周囲を見回すと――


「いた」


 道行く獣人の中でもとびきり弱そうな、小さなねずみの獣人に話しかけた。


「あの、すみませ~ん……」


 ねずみの大きさは俺の手よりも、すこし大きいくらい。

 すすけたハンチング帽をかぶっており、赤い蝶ネクタイをつけている。

 そいつは俺の顔を見るなり、怪訝そうな表情を浮かべつつも足を止めてくれた。

 俺はその場に膝立ちになり、なるべく視線の高さを合わせる。


「なんだね?」


 なんやかんや言ってきたが、改めてこうして動物と日本語で会話できるのは奇妙な感じだ。


 ……日本語。日本語か。

 こういうのはやはりあれなのだろうか。

 勝手に脳内で言語変換でも行われているのだろうか。


「用がないのなら、もういいか? あまりきみと話しているところを見られたくないんだが……」


 まあそうだろうな。そういう反応になるのもわかる。

 俺だって、道端で誰かが犬猫と真顔で会話していたら……どうだろう。

 微笑ましいとか思ってしまうのだろうか。


「すみません、すこしお尋ねしたいことがあって」

「手短にな」


 眼下のねずみは俺が下手(したて)に出ているのを察すると、すこし高圧的な物言いになった。


「三番街という場所へ行きたいのですが」

「……三番街だと?」


 ねずみの片方の眉が吊り上がる。

 そこがどんな所かはともかく、あまり好まれない質問をしてしまったようだ。


「は、はい。どうしてもそこへ行きたくて……」

「……いや、止めておいたほうがいい」

「え?」

「君みたいに貧相な人間だと、すぐに殺されてしまうだろう」

「こ、ころ……!? そんなに治安が悪い所なんですか、ここは……!?」

「いや、治安が悪いというわけではないのだが……」

「え、じゃあ、どういう……?」


 俺が問いかけるとねずみはすこし考えるような素振りをし、やがて口を開いた。


「まあいい。どうしても行きたいのなら、行けばわかるさ」

「えぇ……急にそんな猪木みたいな……」

「イノキ?」

「ああ、いえ、なんでもありません」

「……三番街はこの広場から出て、外壁に沿ってずっと左側を歩いていけばそのうち着く」

「ひだり……ちなみに目印とかってありますか?」

「なに、着いたらわかる」

「そうですか。ありがとうございました」

「もう、いいかね?」


 ねずみは懐から時計のようなものを取り出すと、急かすようにそう言ってきた。


「あ、あと、もうひとつだけ……」


 俺が指を立てて懇願するとねずみはとくに言葉は発さず、片眉を吊り上げる。

 さっさとしろということだろう。


 ここまであからさまに態度に出されると、なんだか今すぐにでもここから消えたくなるが、まあいい。手短に済ませよう。


「……今ってその、何時ぐらいなのでしょうか」

「昼の一時だが」

「一時……」


 やっぱりか。

 懐中時計を見たときからピンと来ていたが、この世界にも時間の概念はあるらしい。

 それもかなり近い感覚だ。

 もしかすると猪木のときみたいに『ナンジ?』とか訊き返されると思ったが、これは収穫だな。


「あの、色々とありがとうございました」


 軽く会釈をする俺。

 ねずみはせいせいしたとでも言いたげに、無言でその場から立ち去った。

 俺の礼儀作法が気に食わなかったのか、ただ単に人間が嫌いなのかはわからんが、今はとにかくあのねずみに感謝しよう。


「……よし」


 立ち上がり、俺も歩き出す。

 だが三番街とかいう場所へは向かわない。

 むしろその逆。

 俺は広場から出ると右側に沿って歩いた。


 さて、とりあえず〝三番街〟が危険な場所だということはわかった。

 だがそうなってくると、なぜジョセフィーヌちゃんが俺をそこに呼んだのかがわからなくなってくる。


 普通に考えたら俺に危害を加えるため、もしくは俺を消すためと考えるのが自然だけど、どうやらあのねずみが言うには、ただ治安の悪い場所ではないらしい。

 俺のような貧相な人間は死んでしまいかねない場所。

 逆に考えれば、屈強であれば死なない場所。


 そもそも、俺はいつジョセフィーヌちゃんの反感を買ってしまったのか。

 そもそも、本当にジョセフィーヌちゃんは俺に害を加えようとしているのか。


「……わからん」


 考えてもわからないことだらけである。

 君子危うきに近寄らずとはいうものの、こうしてぶらぶらしているだけで事態が好転するわけがない。

 第一に今の俺には目的がない。かといって、ここで野垂れ死にたくもない。

 そうなってくると、ここで暮らしていくのに必要な通貨を入手する必要があるが、さきほどのねずみの態度を見るに、人間が職にありつくのは無理そうだ。

 そうなってくると自分で事業を興すしかないが……無理だな。

 誰も人間の商品なんて買わないだろうし、何を売ればいいのかも見当がつかない。


 損して得取れということわざもあるから、ここはあえて〝三番街〟という危険に飛び込むのも――


「いや、ないな」


 死ぬ可能性があるかもしれないのに、おいそれとは飛び込めない。

 ……まずいな、早くも八方ふさがりか。


 俺はひとり、うんうんと唸りながら歩いていると――


「うわ痛っ!? ……いや、痛くない」


 なにかとてつもなく柔らかいモノにぶつかった。

 俺はおそるおそる顔をあげてみると、そこには獣人が二人、俺を見下ろすように立っていた。

 狼と虎の獣人。それも雌。それも――


「なんてプロポーションだ……!」


 気が付くと言葉が脳を介さず、口から直接出ていた。

 上から読んでもボンキュッボン。下から読んでもボンキュッボンである。

 おそらく俺がぶつかったのは、この方々の誇る分厚い胸部装甲だったのだろう。

 人間でもここまでのものはなかなか見ない。

 それによく見ると、二人はなぜか中東風のダンサーっぽい衣装を着ていた。


 ベリーダンス、とか言ったような。

 フェイスベールに、大きなスリットの入ったひらひらのスカート。

 布の色は原色のわりに生地が薄いのでスケスケ。

 こうして見るとほとんど裸である。

 いや、たしかに動物は基本裸だけど。実際大事な所は隠れているけども。


「あら? おにいさん……」

「この辺りでは見ない人間ね。おひとり?」


 二人が蠱惑的な視線と声で話しかけてくる。

 なんだ?

 さきほどまでの獣人たちの態度とは違い、かなり好意的なものに感じる。


「すすす、すみません……! い、いきなりぶつかったりして……!」


 俺は盛大に(ども)ると、すこし後ずさりして二人から距離をとろうとした。

 が――


「いいのよ、気にしないで」

「おにいさんのほうこそ怪我はなかった?」


 虎のほうの獣人がそのぷにぷにとした肉球で俺の顎を優しく撫でてきた。


「なななななな……、なんッ!?」


 俺はその手を払いのけ、さらに後ずさりしようとしたが、背後にはいつの間にか壁が。

 どうやらうだうだ考えている間に、どこか路地裏へとやってきていたようだ。


「なんって……べつになにもしてないわよ?」

「いや……なんか……撫でませんでした……あご……ちょろって……」

「ここじゃ挨拶みたいなものよ」

「あいッ――!?」


 なんて素敵な挨拶なんだ。

 やれやれ、俺はとんでもねぇところに迷い込んでしまったみたいだぜ。


 って、いやいや、いかんいかん。

 意識をしっかり保つんだ。これはさすがにあからさまが過ぎるだろ。

 わかってる。わかってるぞ。

 どうせこのままどこかに連れ込まれて、この二人とではなく屈強な男共とランデブーするハメになるんだ。

 そう、いわばこの二人は撒き餌。

 釣られてなるものか。釣られてなるものか。


「……で、ででででは、自分はここでででで失礼させてもらいます! BYE!」


 俺は二人に別れを告げると、鋼の意志でその場を後に――


「あん、ちょっと待ってってば」


 今度は狼の子が俺の腕にしがみついてきた。

 その瞬間、俺の鋼の意志にヒビが入ったのを感じた。


 虎の女の子とはまた違った感触の肉球、そして乳。

 トドメに鼻孔をつく野性的(ワイルド)な(決して臭くなく、むしろフレグランス的な)芳香(フレグランス)に、頭がくらくらしてくる(メルトダウン)ッ。


「じつはわたしたち暇しててね……」

「ひま?」

「だからぁ……これから誰かと遊ぼうかなぁって」

「あそぶ?」


 もはや舌すら回らなくなってきた。

 鋼の意志は決壊寸前である。


「そ。いけない……あ・そ・び」

「ご、ゴクリ……!」

「どお? おにいさん?」

「わたしたちと、いけないこと……してみない?」


 ジャケットを脱がされ、ネクタイをスルスルと外され、シャツのボタンがプチプチと弾けていく。

 抵抗できない。

 抵抗……したくないッ。


 スルリ――

 やがてふたりのフワフワな手が、プニプニの肉球が、俺の胸板を直になぞる。

 その瞬間、鋼の意志は粉々に砕けた。


「――してぇ……ッ!」

「なあに? なにがしたいの?」

「オラも、二人といけないこと、いっぺぇしてぇ……ッ!」 


 いつの間にか俺は、目から大粒の涙を流し、声帯をギュッと震わせていた。 


「よしよし」

「よしよし」


 やがて、二人に挟まれるように抱きしめられ、頭をなでなでされる。

 前から後からフニフニが押し寄せてくる。

 もはや逃げ場などない。

 いや、逃げる必要がどこにあるというのかね。


「じゃ、一緒に行こうね」

「一緒に……? どこに? ぼく、怖いよ……」


 なぜか幼児退行してしまう俺。


「天国よ」

「そこでいいことを……い~っぱい、しましょうね」

「て、天国……! いいこと……!」


 天国……そうか、ここは地獄ではなく天国。

 俺の天国(マイヘヴン)はこんな所にあったの(イズヒア)か……!

 俺は夢見心地のまま、二人に手を引かれ移動する。


「ゆっくり……ゆっくり……」

「おにいさんは、わたしたちに身を任せるだけでいいの……」


 ……お父さん、お母さん、ぼくを生んでくれてありがとう。

 そして、今までに出会ったすべての人たちに、溢れんばかりの感謝と祝福を。


「異世界、サイコぉーーーーーーー!! ひゃっほぉーーーーーーーーう!!」



 ――などと、獣人の谷間の中心で叫んでいる俺は、ただの救いようのない阿呆に過ぎなかった。

 そして、この時二人に連れられた場所こそが、〝獣国(じゅうこく)〟の三番街。

 今後の俺の異世界ライフを、大きく左右する場所であった。

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