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第9話 羞恥と変態の狭間


「――それにしても、ステータスオープンもできて、変身もできるなんて、まじで至れり尽くせりだな……」


 まだ乾いていないシャツと、スラックス姿で歩く俺。

 濡れたポリ混のシャツが、肌にピタピタと張り付いてきて気持ち悪い。

 でも気候がほんのり暖かくて助かった。

 アンに聞いた限りだと、現在この辺りは春の中旬くらいらしい。

 これが冬とかだったらと思うと……本当に地獄だったと思う。


「……きみは、転生時になにも選択しなかったのかい?」


 隣を歩くアンが、俺を見上げてくる。

 周囲にまだ誰の姿も見えないからか、アンに変装するを気配はない。


「選択……か。たしかになんか、『要望を聞く』とかって言われたけど……」

「けど?」

「結局〝ステータスオープン〟だけなんだよな、俺が出来るのって」

「うーん……」


 アンが顎に手をあてて、小さくうなる。


「どうかしたか?」

「……そんなことってあり得るのかな……?」

「そうなことって?」

「能力がステータスオープンしかないってことだよ」

「あり得るも何も、実際にそうだしな、俺」

「試してみた?」

「試す?」

「そう。なんかこう……手から火を出そうとしたり……?」

「あー……じつは、獣人に拘束されてる間に色々とやってみた」

「そうなんだ。……それで?」

「結局出たのは屁だけだったな」

「そ、そっか……」


 普通に引かれた。

 いちおうボケたつもりなんだけどな。


「というか、アンはそのシェイプシフター……だっけ? どうやって使ってんだよ」

「え? 教えないけど」

「おい」

「でも、こう、なにか……すこし引っかかるんだよね」

「引っかかる? シェイプシフターか?」

「ううん。さっききみのステータスをチラッと見た時、ちょっとね」


 ああ、そういえば俺のステータス画面を、なんか意味深に眺めてたっけ。


「――はッ!」

「どうかした?」

「もしかして、俺の童貞の事か!?」

「え?」

「あれは能力でもなんでもないぞ!?」

「いや、わかってるよ」


 アンがため息交じりに言い捨てる。


「なら、何が引っかかってるんだ?」

「ん……そうだね……ダイスケ?」


 アンが改めて俺を見上げて声をかけてくる。


「おう、なんだ」

「すまないが、もう一度だけ、〝ステータスオープン〟をしてみてくれないか?」

「は? なんで?」

「いいから」


 有無を言わさぬ感じで、俺にステータスオープンをするように勧めてくるアン。

 なんなんだ一体?

 もしかして、改めて俺の職業を笑うつもりなのか?

 ……まあいいや。

 笑われたら笑われたで、そのときは尻をペンペンしてやる。

 俺は右手を前へかざすと――


「……ステータスオープン!」


 ブオン……!

 アンのお望みどおり、〝ステータス画面〟を表示させた。



 ダイスケ Lv.:1

 職業:童貞

 HP(ヒットポイント)  :26

 MP(マジックパワー)  :8

 STR(ストレングス)  :4

 VIT(バイタリティ)  :4

 DEX(デクステリティ)   :3

 AGI(アジリティ)   :5

 INT(インテリジェンス)  :7

 LUK(ラック)   :17



 相変わらず何も変わらない、しょぼいステータスが空中に表示されている。

 これの何が引っかかるというのだろう。


「……気づいたかい?」


 アンが俺のステータス画面を見ながら話しかけてくる。

 というか『気づいたか?』と訊かれても、何にもわからん。


「なにがだよ」

「呆れた。きみは、自分自身のステータスを把握していないのか?」

「いや、把握しているも何も、特に変わったところはないだろ」

「マジックパワー」

「ん?」

MP(エムピー)だよ。はやく見てみてくれ」

「またかよ。さんざん見ただろ? アンのほうが高い」

「いいから、ほら、なんて書いてある?」


 いったい何がしたいんだ。

 まぁ、確認するけど。


「……〝8〟って書いてあるな」

「そうだね。ではもう一度、画面を消して表示しなおしてくれ」

「は? なんで?」


 本格的に意味が分からん。

 そんなにステータス画面(これ)を出し入れさせて何がしたいんだ、この子は。


「……お願い、ダイスケ」

「ああ、まかせろ。このくらい、何度だってやってやるさ」


 突然の美少女の懇願。

 そんなの無下に出来るはずがなく、俺はアンの言うとおりにしようとして――

 そこで固まった。


「……どうかしたかい?」

「いや、どうやって消すんだっけ。これ」

「え? じゃあ、今まではどうやって消してたの?」

「……時間経過?」

「そうなの?」

「いや、ごめん。適当」

「ダイスケ」


 親に叱られたときのトーンで名前を呼んでくる。


「ごめん母ちゃん。……ていうか、意識して消したことなんてなかったな」

「じゃあ出しっぱなしなのかな?」

「そんなはずは……いや、案外、アンの言うとおりかもしれん」

「……ふぅん、なるほど」


 ひとり納得するアン。

 軽口のつもりだったんだけど、妙なところで本気に取るな、この子。


「ああ、ごめん。ステータス画面の消し方は、画面に触れたまま、手をパーからグーにすればいいよ」

「……なんか、本格的にタブレット端末みたいだな」


 俺はそうつぶやきながら、ステータス画面に触れた。

 ひんやりとひゃっこい。

 例えるのなら、真夏、日陰にあるアルミのロッカーに肌をつけたような感じ。

 しかし、手触りはもっとがっちりとしていて、重量感がある。

 なんというか、不思議な感触だ。

 俺はそんな余計なことを考えながら、アンに言われた通り……手を握った。


 シュン……。


 アンの言うとおり、ステータス画面が消える。


「……それで、もっかい出すんだよな?」


 なぜか腕組みをしていたアンに尋ねる。

 アンは何も返事はせず、それでいて、なにか考えるようにうなずいた。


「……ステータスオープン」


 ブオン……!

 俺がそう唱えると、いつもの電子音とともにステータス画面が表示される。


 ダイスケ Lv.:1

 職業:童貞

 HP(ヒットポイント)  :26

 MP(マジックパワー)  :7

 STR(ストレングス)  :4

 VIT(バイタリティ)  :4

 DEX(デクステリティ)   :3

 AGI(アジリティ)   :5

 INT(インテリジェンス)  :7

 LUK(ラック)   :17


「……あれ?」

「やっぱり……」


 腑に落ちたようにアンがつぶやいた。

 いや、それよりもこれ――


「なんか俺のMP減ってないか?」

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