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プロローグ


「――は?」

『ですから、小川大輔(おがわだいすけ)さん、貴方はお亡くなりになられました』


 いきなり告げられた死亡宣告。

 告げてきたのは、トーガに身を包んだ金髪のお姉さん。

 頭に月桂冠は載っていない。


『混乱なされているようですね。ですがこちらもあまり時間がありません』

「時間が……?」

『はい。すぐに次の方の対応もしなければなりませんので』


 そんなお役所仕事みたいな……。


『具体的に言えば、あと千八百七十七文字くらいでしょうか』

「なんで文字数制限あるんだ」


 そんなやり取りをしていると、今までおぼろげだった周囲の景色が、まるで霧が晴れるように鮮明になってくる。

 無機質なタイル床に無機質な白い天井。

 整理券発券機の前に立って番号を読みあげているお姉さん。

 横を向けば絶えず人が立ち代わり入れ代わりしている窓口。

 振り向けば高齢の方々が簡素なプラスチックの椅子に腰かけている。

 俺もいつの間にかキャスター付きの椅子に腰かけて、長いカウンターで隔てられたお姉さんと対面する形になっている。

 まるで市役所のようだ。


「これは……」

『ここは小川大輔さんの心象風景、いわば心の在り様ですね』

「それはどういう……?」

『おそらく〝お役所仕事〟という言葉から連想されたのでしょう』

「なるほど。……って、あれ、言葉に出してましたっけ」

『いえ』

「ということは、貴女が着ているその服も……?」

『これは自前です。ですので小川大輔さんからの影響は受けません』

「そ、そうですか……」


 すげえ浮いてるうえに、どういうセンスしてんだ。


『……貴方と私とでは、生まれた時代も、場所も、価値観も違うので』


 お姉さんは不機嫌そうに口を尖らせながら言った。

 どうやら怒らせてしまったようだ。


『怒っていません』

「……あ、あの、それで本題のほうは?」

『そうでした。死亡宣告をしたので……次は……えっと……』


 新人なのだろうか。

 お姉さんはまるでタブレット端末を操作するように、その指を虚空に滑らせている。

 こちらからは何をしているかはまったく見えないが、おそらくお姉さん側からは何か見えているのだろう。


『死因についてなにか覚えていますか?』

「死因……いえ、気が付いたらここに……」

『そうですか』


 お姉さんはそう言って、また指で虚空をなぞる。

 どうやら死因について教えてくれるつもりはないようだ。


 ……まあいいさ。

 おそらく思い出させるのも憚られるほどの死なのだろう。

 そんなものなら俺も思い出さないほうがいい。


 そんなことを考えているとお姉さんはすこし寂しそうな顔で俺を見た。


『小川大輔さん』

「はい」

『貴方はこれから、今までいた世界とは別の世界へと飛ばされます』

「え」

『現代風に、簡潔に申しますと、異世界転生していただきます』

「異世界転生って……」

『はい。ですが、転生と申しましても、どちらかというと転移に近いかと存じます』

「それはどういう……?」

『今ある記憶は保持したまま、小川大輔という()のまま、別の世界へと飛ばされるということです』

「あの、それって珍しいことなのでしょうか?」

『そうですね。普通ですと記憶を消され、まったく別の生命体として同じ世界へと転生、もしくは別の世界へと転生させられます』

「じゃあ……なんで俺だけ……」

『詳しくは申せませんが、ただひとつだけ。これから小川大輔さんが転生なさる世界は非常に困難を極める世界です』

「困難……ですか」

『地獄といっても差し支えないような場所です』

「じご……え?」

『ですので、これから貴方には――』

「それ、拒否権はあるんですか?」

『貴方がご自分の意志でこの場所にいないように、転生先の選択に拒否権はございません』

「……ためしにゴネてみても?」

『その場合、わたくしどもから譲渡する権能が使えなくなる場合がございます』

「権能?」

『現代風に、簡潔に申しますと、スーパーパワーですね』

「わかりやすいけど、なんか面と向かって大真面目にスーパーパワーって言われると面白いですね。ちなみにそのスーパーパワーはどういったものが?」

『小川さんが望まれるようなものでしたらなんでも』

「なんでもって……なんでもですか?」

『はい。なにかご希望される権能はございますか?』

「いや、まぁ、急にそんなこと言われても……」

『ちなみに現在人気なのは〝最強〟ですね』

「は? そういうのってありなんですか?」

『ありです』

「ふぅむ……」


 ここは俺も先人に倣って最強を……と言いたいところだが、いくらなんでも抽象的すぎやしないだろうか。

 というか、そもそもスーパーパワーというよりはもはや概念だし。


 たしかにこういった超常的な人が〝地獄〟なんて呼んでるくらいだから、備えなんていくらあってもいいんだろうけど……。

 〝最強〟か……一口に最強と言われても、どういうふうに最強なのかまったくわからん。

 もし〝早食い競争において最強〟なんて権能にされたら目も当てられない。


 ……うん、ここはやはり即決するよりは慎重になるべきだ。

 もうすこし転生先の世界の情報を引き出してから、その世界に適する権能を選ばせてもらおう。


「あの、話をすこし戻したいのですが、異世界転生っていえば、あのステータスオープンとかいうやつですよね?」

『――時間です』

「は?」

『権能はそちらのほうで手配させて頂きました』

「いや、どういうこと? まだ何も決まってませんよね?」

『言い忘れていましたが、地の文や改行、私が発した言葉も文字数に含まれています』

「うそだろ……文字数制限のくだりって冗談じゃ――」

『では、小川大輔さん、気を付けていってらっしゃいませ』

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