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8話

「あっ、君はあの時の吐いてた子だね」


 道端で出くわしたポプリにそう言われた。彼女は一週間前にフォルテ・ハインツの家で小悪魔の鑑定を買って出たドワーフの商人だ。


「ひどい第一印象ですみません」


「いやいや、スクリームデビルの鳴き声を聞いて吐くなんて、よくある話だよ。特に」


「特に?」


「高名な魔術師の間ではね」


 ポプリの眼光が鋭くなる。まるで値踏みをされているような気がするのは相手が商人だからだろうか。それとも、ポプリだからだろうか。


「その話は初めて聞きました。次からは耳を塞ぐようにします」


「塞いでも意味がないよ、あれは魔法みたいなものだから。それよりも、君はアタシが嫌いなのかい? 今、適当に話を濁そうとしたね?」


 ゲロをぶちまけてから1週間、ずっと気になっていた答え合わせができた。やっぱりあれは魔法だったみたいだ。


「話を濁そうとはしていませんよ。ただ、やっぱり魔法に近い技術だったんだなって思っただけです。ただの音にしては耳に違和感は無いし、どちらかというと頭とお腹の中を掻き回されたみたいだったので、変だなと思ってました」


 そう告げると、ポプリはやれやれといった様子で肩をすくめる。


「はぁ……子供と話をしている感じがしないね……いけ好かない商会のオヤジと交渉してる時みたいだ」


「褒められて嬉しいです、わーい」


「褒めてない!」


 肩をすくめたと思ったら、キッと睨まれる。


「それで、僕は高名な魔術師なんですか?」


 あえて話を飛躍させてから、少しだけ論旨から外せば訂正が来ると思った。


「いやいや、魔術師は体内に内包されている魔力が高いから、ああいう攻撃に弱いって話さ。正確には対抗手段を持たないくせに魔力量だけ高い、魔術師の子供に多いって話だけどね」


 大きい瓶にたっぷりと水が入っていれば、揺らした時の対流も大きくなる。


 魔術師として成熟すれば対抗策もあるだろう。しかし幼子であればいたずらにかき乱されると、そういうことだろう。


「教えてくれてありがとうございます」


「わざわざ話術に乗ってあげたんだ、アタシの疑問にも答えてもらうよ」


 ポプリも中々やり手だ。分かっていてわざわざ話したようだ。


「君、何者?」


「……この町に住んでいる者です」


 僕は時々、大人から賢いと言われることがあった。ポプリはそこを指摘してきた。


「いや、言葉遊びはもう十分。見たところ12歳かそこらだろう?そんなに賢くて、ただの町民にしては魔力系の攻撃に弱いほど、魔力を持っている。人間に化けた何かなの?」


「失礼な。生まれも育ちも人間ですよ。昔から物覚えが良くて、よく頭がいいって言われるんです」


「ふーん、スキルの鑑定は?」


「この町にはそういう鑑定士も居ないし、大聖堂があるような町にも行ったことがないので。多分『瞬間記憶』だと思っていますが」


「『瞬間記憶』ね、合点のいく話か。まあ何者でもいいんだけどね。この町で鍛冶屋を継ぐには惜しい器だと思うよ。見たところ魔力量も相当なようだし」


「魔力については分かりません。魔術師の弟子になったことも、魔法のマも知りませんから。……それよりも、よく父が鍛冶屋だとわかりましたね」


「そりゃ右腕だけ発達した筋肉と、ふくらはぎの肥大を見れば立ったり座ったりを繰り返して何かを振るってる職業ってことでしょ?指揮者じゃなければ鍛冶屋に決まってるよ」


 なるほど、この人の着眼点は勉強になる。


 情報の基本は観察と知識だ。きっと行商人という生き方が故に自然と身についたんだろう。見たこともない魔物に遭遇することもあるはずだ。そういう時に優れた観察眼を持っていれば生き残る確率も上がるんだろう。


「それで、君、ウチのキャラバンに入らないか?」


 突飛な話だった。キャラバンとは商隊のことだ。


 数名から十数名の商人が隊を組み、共同出資で護衛を雇う。人件費の削減にもなるし、強力な魔物に出くわした時に、標的を分散させることができる。


 キャラバンとは少数の犠牲を前提にした効率的な行商法だ。


 ただ、僕を誘うためだけにこの町に留まっているとは考えにくい。行商人の利点はフットワークの軽さだから。


「そのためだけに1週間も滞在を?」


「アタシ、キャラバンのリーダーだから」


「……嘘ですね」


「……聡いね」

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