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4話

「失礼だが、どちら様かな。当家の正門はここではないのだが」


 かがみ込んで小人を観察していたフォルテの父は立ち上がると、少しだけ歪んだスカーフを直す。


「まあまあ、堅いことは言わずに。困っているんだろう、その小人の処遇について。こちらも商売仲間と競争しているんだ。あなたの許可さえ出ればすぐにでも解決できるんだけど」


 声色から意図が汲み取れない。まるで堂々としており、言葉以上の意味を推し量るのが難しい。


「私はこの街を治めるものだが、別に貴族というわけでもない。不躾を許そう」


 フォルテの父親が、声のした方、つまり外壁の方を向くと、間もなく一人の女性がひょっこりと顔を出し、身軽な調子で壁を乗り越えてきた。


 フォルテの父は領主としての矜持からか、斜に構えることはなく正面で相対している。


 なんとか握手のできない距離、丁度3メートル程の場所まで来ると、彼女は見慣れない礼をした。


「領主としてあるべき姿勢ですね。そして、懐の大きさには……」


「世辞は結構」


「礼を欠いた対面と炎神様に感謝を。アタシは行商をしているポプリっていうんだ。見ての通りのドワーフよ」


 ポプリと名乗った赤髪、童顔の女は、わずかに筋肉質であり、褐色だ。人間の成人女性と比較して背丈は劣るが、横幅は大差ない。結果としてガッシリしている印象を受ける。


「確かにドワーフのようだ。私はこの町の領主をしているハインツ家の家主、メルヴィンという。できれば行商人としての証明を提示願いたい」


「うんうん、そういう警戒心は嫌いじゃない。商業ギルドの在籍証明と行商許可証でいい?」


 ポプリはその場で背負っていたリュックを下ろし、中から2枚のカードを取り出した。


「確かにあらためた。……それで、鑑定だったか?」


 フォルテの父、メルヴィンがカードを確認すると、それらを返却しながら話題を切り出す。


「そうそう、横から庭先に立ち入るのが失礼なのは承知の上。スクリームデビルの声が聞こえたものだから」


「スク……なんと?」


「『泣き叫ぶ子供』とも言われている下級の魔族だよ。詳しいことは分かっていないけど、その叫び声を聞くと具合が悪くなって吐いたり寝込んだりする。幻惑系の魔法を使うこともある」


「魔族とは……最近多いな」


「具合が悪くなるだけか?うちのせがれは大丈夫なのか?」


 父は僕を抱えたまま、心配そうにポプリに問いかけた。


「ああ、あんたはそこで吐いてる子のお父さんか。なるほど確かに二人とも綺麗な銀髪だ。大丈夫、叫び声聞いて死んだっていう話は聞いたこと無いし、叫ぶのはスクリームデビルたちの防衛本能だからしばらく経てば元気になるよ」


 ほっとしたのか、父は抱きかかえた僕の頭をそっと撫でる。その服からは汗と鉄の匂いがした。あと、僕のよだれとそれ以外の臭いもした。臭かった。


「まぁ、そんな様な声が聞こえたからしゃしゃり出てきたの。最近よく出るとはいえ魔族は珍しいから、鑑定も大変でしょ?」


「……悔しいが認めよう。その通りだ。領内に現れた魔族らしきものが『何だか分かりませんでした』という訳にはいかない。領主として貴族に報告する義務があるからな、頼むとしよう」


「まいどありがとう」


 商談が成立したポプリは上機嫌だ。背丈に対し大きすぎるリュックを背負い直してポプリは倒れた小人へ近づいていく。


 僕はこの時、ポプリには鑑定以外の何か目的があるだろうと予測していた。


「おお、これは間違いなくスクリームデビルだね。それにしても見事な一撃……打撲の痕から察するにそこの君だね?」


 目配せをされたフォルテはハッとして「そうです」と答えた。


「真っすぐいってぶっとばしました。今はその魔族? が有害なものであれば叱られずに済むのでドキドキしながら結果を待っているところです。少しでも有害な魔族ならちょっと誇張して父上に伝えてください、ポなんとかさん」


「ははは、君は人の名前を覚えるのが苦手なのかな。私は可愛いと思うけど次期領主としてはもう少し得意な方がいいかもね」


「はい」


「でも正直なのは良いこと、立派だね」


「ありがとうございます」


 このポプリという行商人は食わせ者のようだ。子供を褒めて親からの印象を良くしている。


「息子を褒められるのは悪い気がしない。素直に感謝しよう、しかし本当の目的は何だ?鑑定で小遣いを稼いで終わりという訳ではないだろう?」


 フォルテの父も僕と同じことを考えていたようだ。

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