2話
僕とフォルテはアメリカンコミックヒーローごっこを始めた。彼いわく、それらは夢の世界で讃えられていた英雄のようである。その力は凄まじいとのことで、その身ひとつで空を飛び、ミサイルと言う名の魔法を駆使して世の圧政者を倒していったそうだ。
圧政者を慕う反乱分子とか大丈夫なのだろうか。食事に毒を盛られたりしないのだろうか。と、色々気になることはあるけれど、フォルテは英雄の真似をしたいようだ。
「多分クモの糸は飛ばせないと思うんだよな」
「人間だからね」
「でもスパイダー……いや、アルトに想像しやすいようにクモ人間と呼ぶことにする」
「クモなのに人間なのかい?」
「そうさ。壁をよじ登れて、糸を飛ばせるんだ。こんな風に」
そういうとフォルテはかなり独特なポーズをした。
「あまり格好良くないけど、ユニークだね」
「思ってることをそのまま言うなよ」
「クモ人間は知らないな、ムカデのやつなら知ってるけど」
「アアッ! それはダメ! トラウマだから!」
ひとしきり床を転がり悶えた彼は、体を反り上げたまま「とにかくクモ人間はまだ人類には早いので、もっと古典的なやつにしようと思うんだ」と言った。
「ちょっと外に行って岩を持ち上げよう」
「何言ってるのかわからない」
フォルテは屋内用だったサンダルからブーツヘと履き替えて廊下へと歩き出す。僕とフォルテの足音が廊下の床を軋ませて、ギギイという音が開いた窓から空へと抜けて行った。
階段を降りたら庭へと続く戸を開いて、外に出る。午後の風は爽やかで、新緑が新しい生を感じさせるが、僕は新たな違和感に囚われていた。
「なあ、アルト」
「なんだい、フォルテ」
「変な感じがしないか?」
僕と、僕の友達は違和感に囚われていた。
「うちの階段は14段だったような気がするんだ」
「それは気のせいじゃないよ。ハインツ家の階段は2つあって、今降りた方は14段。踊り場がある方は16段、6段下って右に向かって折り返す。それから10段下がって1階に到着」
「今降りた時」
「1段多かったね」
僕とフォルテは振り返った。