21話
ぐう。
猛烈な空腹感で目を覚ました。
頭も体も重く、意識もうつろだが、一生懸命に記憶を辿る。
「ポコ!」
妹のことを思い出すと、一瞬で覚醒する。右手には何も握られておらず、慌てて体を起こすと、頭を強打した。
ゴンという鈍い音が体中に響き渡って、光もない、闇一色の世界で閃光を見た気がする。
「痛い……ここはどこだ」
頭を打ったことで血の気が引き、サーッと冷静になったので、恐る恐るといった感じで手を伸ばし、周囲を探る。
横幅も、縦幅も、人一人分ぐらいだ。高さだけは一人分より余計にあった。指先から、ざらざら、ゴツゴツとした岩の触感が伝わってくる。その時、生き埋めにでもなったかと思ったが、すぐに考えを改める。
縦も横も高さも、あつらえたようにぴったりな直方体だ。こんな空間が偶然できるわけがないし、仮にそうだとしたら近くにポコがいるはずだ。
フォルテだって、ヴィランダだって、パロメとユッシだって居るはずだ。それなのに、この場には僕以外の気配は全然ない。空気の動く感じも、あの、ねっとりと張り付くような魔力も感じない。
ひんやりとした温度の他には、何もかも、全く感じないのだ。闇に目が慣れることもなく、岩と土の匂いがするだけだ。ただひたすらに光なき世界がそこにあるという事実に、足がすくんだ。
ああ、きっと僕はめくり上がる地面に飲まれて生き埋めになってしまったんだと、改めた考えをもう一度持ち出した。
その時、頭のてっぺんに風を感じた。
もしかすると、頭のあたりには隙間か何かがあって、外と繋がっているのかもしれない。よくよく考えれば、気を失っている間に空気を全て吸い尽くしてしまっても不思議じゃないくらいに狭い場所だ。
頭の方へ、目一杯に手を伸ばす。すると、酷い倦怠感を感じた。流行り病にかかった時のような、筋肉のだるさだ。それでも、手と足を突っ張っていると、頭の方の岩がずれたような気がする。
それは気のせいではなく、わずかに空いた隙間から、蝋燭の火のような心細い光が差し込み、埃っぽい空気が入ってくる。休憩を挟みながら少しずつ隙間を広げていくと、15分くらい経ったころにバタンという大きな音を立てて頭の岩が外側に向かって倒れた。
なんとか這い出ると、その景色に驚く。
真四角な部屋だった。天井までは3メートルくらいで、四方は5メートルほど。床は不規則に並べられた石によってタイル柄になっている。そして、壁にはびっしりと人骨が埋め込まれているのを、壁のたいまつが照らしていた。
即座に地下墓地という言葉が頭をよぎる。
僕が出てきた壁面にはいくつものくぼみがあって、更にそのいくつかには石のふたがされていた。この時、自分が押していたものは石のふただったのだと気がついた。
「ハハ、どうりで重いわけだ」
ぐう。
腹が鳴った。
「お腹もすいたし、喉も乾いた。それにしても、ひどくだるいな……頭も痛いし、もう少し休もう」
とにかく体の中が空っぽのようで、何もできる気がしない。こういう時は判断能力が欠如する。休みながら何をすべきか考えをまとめよう。
あたりに視線を配りながら、少しずつ疑問点をまとめて仮説を立てていく。
まず、ここはどこかというと、恐らく地下墓地だ。地面が揺れて、めくり上がった時に町の地下にある墓地に繋がってしまった……というのは荒唐無稽だ。地下墓地であることは間違いなさそうだが、町の地下には墓地はない。死人は町外れの場所に埋葬される。今まで一度も、それこそ言い伝えでさえ聞いたことがない。
であれば、どこか別の場所に移動してしまったのか。それこそ荒唐無稽ではないかと、少しおかしくなった。「どうして」の部分については先送りにしていいだろう。
次は僕以外の人はどうなったのかと考えながら壁のくぼみを見る。ふたのされているものが3個あった。僕と同じように、誰か閉じ込められているんじゃないかと思うと、今すぐにでも確認したい欲求に駆られる。
しかし、到底無理な話だった。僕が出られたのは内側から押したからで、外側からでは引っ張らなければならない。押して出るだけで15分もかかった。素手で引っ張るのは無茶が過ぎるというものだ。
L字型の道具、てこの原理が働くようなものが必要だ、と考えながら腰を見るとカインの打った剣があった。これを使ってこじ開けるわけにはいかない。そういうための道具ではないし、とても大切なものだ。
この場所を覚えて、準備を整えてまた来よう。その時に全て確認すればいい。
最後に、何時間気を失っていたのか。腹の減り具合から相当時間が経っていると思う。下手すれば1日近く気絶していたのかもしれない。それにしては何ももよおさないのは妙だ。飲まず食わずでいれば尿意も便意も来ないのかというと、そういうわけではないだろう。
段々と冷静になってきて、今、自分の手の届く範囲が分かってきた。
闇雲に歩き回っても迷うだけ。まずは外に出て体調を整えよう。もしかすると僕と同じような境遇の誰かに会えるかもしれない。
そう結論づけると、壁を支えに立ち上がった。相変わらず膝が笑っている。
「フラフラだ……道中で倒れないようにしないと」
よたよたと、覚束ない足取りで部屋を後にする。
一歩通路へ出ると、さっそく右か左か選ばなくてはならなかった。どちらも通路の先は見えないが、何となく左には行きたくなかった。それは勘というか、ゲン担ぎというか、そういう直情的なものだ。漠然とした「嫌な予感」を左から感じるので、右に向かって歩を進める。
「1……2……3……」
歩数を数え、分かれ道を記憶しながら。




