表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

11話

「待って、フォルテ、待てってば」


「魔物と戦うにはやっぱ剣が必要だろ!オラ、ワクワクしてきた!間違えた。ビクビクしてきた!」


 本当は戦いたくて仕方がないみたいだった。フォルテを見ていて思うのは、それでも戦闘狂いではない。基本的に喧嘩はしないし、争いは嫌がる性質だ。


 ただ、魔物と聞くと、心の内の何かが疼くようだ。


 どこか生き急いでいるようにも見えるし、そういう性分なのかもしれない。


「フォルテは魔物と戦うために武器が欲しいんだろう?わかったよ、引っ張らないでくれ」


「分かってくれて某も嬉しいぞよ、サンチョ・パンサ」


「アルトだけど」


「それで、何か妙案があるんだな、申してみよ。サンチョ・パンサ」


 ようやく僕の裾はフォルテから解放された。裾は何となく間の抜けた感じに伸びていた。「あれ?しばらく見ないうちに慎重伸びた?」と尋ねてしまいそうだった。


「僕たち向けの大きさの武器なんて、売ってないよ。それより僕の父は鍛冶屋だから」


「なるほど、確かに!」


 サンチョ・パンサの主人は、天啓が降りたように進路を変えた。


 しばらくして工房が見えてくる。さすがは職人通りといった様子で、そこら中から、のこを引く音や、かんなの音が聞こえてくる。


 どの工房も筋肉が肥大化した、いかにもな職人が出入りしており、時折見習いらしい子供が出入りしている。


「おや、アルト君じゃねえか」


「こんにちは」


 父の工房に入ると、入り口近くで作業をしている火目付役の作業員が声をかけてくる。逞しいひげがフサフサと揺れ、鋳造釜のたゆたう炎がその頭に反射する。


「旦那ァ!せがれが来ましたぜ!」

 とびきり威勢の良い声が上がる。


 すると、金槌の鳴き声が止み、一つの人影が陽炎に揺れた。


「おう、アルト。お前が工房に遊びに来るのは久しぶりだな」


「中々顔を出せなくてごめんなさい、家の事とかが結構大したことで」


「いいや、よくやってくれている。俺がしてやれればいいんだが。それで、今日はどうした」


 フォルテと僕、2人に目配せをしながら尋ねてくる。


「おじさん、一週間前はありがとうございました!実は剣が欲しいんです」


 フォルテから剣が欲しいという言葉を聞くと、父は目を丸くして、その口角を上げていく。


「ハッハッハッハ!そうかそうか、フォルテもアルトもそういう歳になったか!」


 豪快に、快活に、嬉しそうに父は笑う。


「だが、駄目だ」


 しかしその目つきは鋭いものとなった。


「どうして!おじさんは名工だと父上から聞いています」


「その評判は正しい。俺は名工だし、ここらの工房では一番だ。だから、子供の剣を打っている暇はない」


 なるほど、という顔をしていると、フォルテが僕に「何か察したんなら教えてくれよ」と言わんばかりにせっついてきた。


「フォルテの聞いた噂、あれが本当だからだと思うよ」


「アルト、お前、どこから……なぜ知ってるんだ?機密のはずだが」


「フォルテから」


「ああ……どこから漏れるか分からないな。その話は俺たち大人が対処する。口外するなよ」


「もちろんだよ、父さん」


「おじさん、お願いだよ、僕は母さんを。アルトはポコちゃんを、見てなくちゃいけないんだ」


「剣を持つことに反対するつもりは無いが、手が足りない。子供を守るのは大人の務めだ。お前たちは心配しなくていい」


 しくじった、場所が悪かった。ここは工房で、多くの職人が働いている。作業員一人一人にどこまで話が伝わっているか分からないが、魔物大発生の件で忙しくなっているなら、父は大人の男としての矜持を保たなければならない。


 ここで子供の言う事を鵜呑みにしたら、理解のある良い父親にはなれるが、全体の仕事を管轄する頼れる親方では無くなってしまう。


 そして、職人として、一度言ったことは曲げられない。


 ここで金銭を支払い客になれば、切り口になるかもしれないが、それは父親としての側面が許さない。であれば諦めて町の武器屋で手に入れるしかないが、多分僕らは叱られるだろうし、丁度いい大きさの物があるとは限らなかった。


「親父!……じゃなかった、親方!手が足りないなら俺が打つよ」


 顔を黒く染めたカインが皮手袋をしてやってくる。


「カイン、お前、また皮手で顔を拭ったな。目や鼻に鉄粉が入ると危険だからやめろと言っただろう」


「ごめん、親方。気を付ける」


 申し訳無さそうなことを言いながら、特に申し訳無さそうではない兄が、革手袋を外しながら話を続ける。


「今、手が足りないんだろ?発注いっばい来てるって言ってたじゃないか」


「お前は半人前だ。まだ早い」


 カインが一歩詰め寄るが、父は全く動じない。


「武器は自分の身を守るためのものだろ?兄が弟を守ったって悪くないはずだ」


 親として嬉しいからか、あるいは職人として口答えする半人前に反感を持ったのか。真意は不明だが、その言葉に父の眉が少しだけ動いた。


「……わかった。そこまで言うなら打ってみろ。ただし、これはお前が勝手にやることだ。工房の仕事ではない。もちろん、工房の稼働時間内にはやらせないし、俺は手を貸さない。やるなら全員が帰った後に勝手にやれ。ただし、忘れるなよ。武器は道具だが、命綱でもある。有事の際に武器が壊れ、それでアルトやフォルテが死んだら、それはお前が殺したということだと心に刻め」


 父はそれだけ言うと、翻って仕事へと戻っていく。


「はい!ありがとうございます、親方」


 仕事に戻る父の背中。それを礼で見送るカインの姿は、まさしく兄の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ