10話
洗濯を終えて、ポコが遊びに行くのを見送ったら、父と兄の昼食用に色々な端材を煮込んだスープを作ってパンを焼く。
「ずっと思ってたんだけど、アルトってお母さんみたいだよな」
「そうかな」
僕の家での仕事は主婦のそれだ。同じくらいの年頃の子と比較しても仕方がない。12歳にもなると、家庭によっては親の仕事を手伝ったり、半人前としての労働をしたりする。
僕たちの町では、やることは多く、人出は少ない。子供が遊んでいられるのは精々10歳かそこらまでだ。
「正直、ナターシャや母上のご飯よりも、何かと美味しい気がするんだ」
メイドや母親よりと言われると、悪い気がしない。
「振る舞ったことないけど?」
「ごめん、美味しそうな気がするんだ」
訂正されたが、共感はできなかった。
「いつか俺が夢で見た料理を作ってくれよ。涙流しちゃうぜ、俺」
「フォルテの夢の料理か、気になる」
足の早い春野菜を細かく刻んで鍋に入れていく。冬用に備蓄していた干し肉が少し余っているので、それも少し入れる。
「スープに肉入れてるもんな、ウチは母上に言っても、ナターシャに言っても入れてくれない」
「肉は貴重だからね」
「アルトの所は大丈夫なのか?」
「肉屋から脂身を譲ってもらえることになったんだ。その代わり計算と文字を教えてる。たまにね」
「脂身って、ろうそくに使う部分って聞いたけど」
「ろうそくは無くても生きていけるけど、ご飯は無いと飢えちゃうから」
はぁーと、フォルテは感心したような声を漏らす。たくましいと言いたげな様子だ。
「それで、フォルテがわざわざ遊びに来るなんて、また何か良からぬことを考えてるね?」
「フフフ、思い込みは良くないぞ、ワトソン君」
「アルトだけど」
「ちょっと良からぬ噂を聞いたから話しておこうと思って」
良からぬ噂。ベリンダとポプリの関係だろう。予想だと数日のうちに町内に知らせがでるはずだ。フォルテは両親が話している内容を聞いたのだ。と、僕は推察する。
「戦いが起こるかもしれないんだって」
「……戦争?」
「いや、そこまでは分からないけど、多分魔物の大規模発生」
やっぱりきな臭いことになった。
「南側で何かあったんだね」
「アルトは話が早すぎて、時々怖いことがあるな」
「波及して北側でも何か起こってると見た方が良さそうだね」
「もう、飛びすぎ、飛躍しすぎ何がなんだか分からねえよ」
「ああ、ごめん。南から来たポプリがこの町を抜けないのは北の街道が使えないからだと思ったんだ。ポプリの行動から予測しただけだから、前提が間違ってる可能性もあるけど」
「いや、アルトがそう言うなら多分間違ってない、じゃあ行こうか」
「何処に」
「武器屋」
フォルテに引っ張られる形で家を飛び出した。