虚ろな心
こんにちは。烏川です。信じられない程短い文量で物語を更新していこうと思います。更新は不定期ですのでご了承ください。
バラクス。世界を作りし神は、かつてこの球体をそう呼んだらしい。草木から落ちる艶やかな水。風を彩る幾万の色の花。この星を見守る遥かな空。誕生から永く生命を育みつづけるこの星では、果たして生命達に何処までの意識はあるのか、という程に意思疎通や生活様式は至って原始的であった。
故にこの星の生命体は自身らに大きな変化が降り立つことに気が付く程、高い知性を持ち合わせてはいなかった。
〜62億年後〜
「ラヴィ、いつまで寝てるの?もうすぐで昼になってしまうけれどいいの?」
「ん....何の話だ....?今日は炊き出し当番の日じゃなかったはずだよな..?朝掃除の当番だって違...あ!!!まずい!サーラばあさんに薬を頼まれてるんだった...!急いで支度しないと....!!ッッ!」
物凄い勢いでベッドから転げ落ちるようにして起きるラヴィ。23歳。男。サンカ村に住んでいる少し身長の高い青年である。
いつもこれくらい早く動いてくれればいいのに、と言わんばかりの呆れた顔で主人公を見つめるのは、ヘルメ。22歳。女。このサンカ村での唯一の機工技師。
世界バラクスには、大きく2つの大陸がある。人類が住むルメリア大陸と、亜人類が住むメルナ大陸である。この2つの大陸が海を隔てて離れているのは、かつて1つだった大陸で大きな戦争が起こり、生物の醜さに怒りを顕にした神が地を分けたからだという。真相は定かではない。
少し話が逸れてしまったが、ヘルメのつく機工技師というのは、現代科学が発達したルメリア大陸において、様々な機工具を開発、修理、メンテナンスなど多岐にわたる仕事をする職業である。そしてその機工技師は扱う技術が複雑なために、それに関する高い知識の所持を前提とする。機工技術は、ルメリア最難関とも言われる、王都ルフェンにて行われる機工技術認定試験に合格したもののみ名乗れる職業である。それでは村に1人しか居ないのも仕方の無いことであろう。
「いやホントに助かった..!ありがとうヘルメ!またお礼するからー!行ってくるー!」
「あ、ちょ、ちょっと待って!私も行くから!」
追いかけるヘルメを余所に、いつもの倍はあるのではないかと思える程の速さで駆けていくラヴィ。いずれこの青年たちが、2つの大陸や様々な種族の架け橋となることとなろうとは、まだ誰も知る由もないのであった。
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「どう考えても早いうちに殺しておいた方が良いのでは...?いくら私共といえど、流石に成長を待つほど悠々としてる余裕は無いですし....それに今この段階で芽を摘むこと自体は必須事項のはずです。もし力を付けられてしまえば流石に」
「分かっている。だが大陸間の話だ。尚更のこと慎重にやらねばならないと毎度言っていることだろう。.....基本的にはこちらから行動はできない。互いに共同政軍不可侵条約を結んでしまっている以上は本当に何も出来ないのだ。であれば使い捨ての駒でも送り込むしかないだろう。だがしかしそうなると機密機構に支障が出るのだ。仮に第一級死刑囚を使うとなれど、それも口が軽い奴らばかりだ。使える者がいるとは思えない。何が正解だと言うのだ?」
「正解?君は幻影魔法が得意なのだから、自分で赴いて行くのが筋と言うものではないのかい?そう思わないかい?君は結局のところ臆病なだけでは無いのかい?ああ、そうなんじゃないのか?きっとそうだろう、大陸間だかなんだか巫山戯たことを抜かしておいて、一族の恥すら拭えないなんて、ああ、なんて不幸な一族なんだろうか。帝よ、本当にこの虫けらを...」
「貴様....そこまで侮辱される筋合いはないと思うが?...なんのつもりだ?貴様こそハッキリしない考えで場を掻き乱しておいてよくそこまでのうのうとその椅子に座っていられるな...?自覚を持て、貴様にそこは似合わないということを..」
雰囲気は最悪と言っても足りないくらいであろう。純粋な会議である場に、正解を求める者、ただ批判したい者、不安感を呈する者、まるで社会の縮図のような汚臭がしそうな勢いの会議室である。だが正直なところ全くの不安も無しに事を解決しようだなんて思うことは出来ないのである。ここはメルナ大陸。ルメリア大陸とは反対に位置する、亜人類が暮らす大陸である。今魔皇会議で行われていた会議は、ラヴィ達に関することでもあり、2つの大陸間の緊張を大きく揺さぶるものでもあった。あの大戦以来、2大陸が友好であるということはほとんど無いのである。
「今日は随分と五月蝿い者が多いな。今までと顔ぶれは変わらないと認識しているが...?」
透き通った声が響く。彼は魔王アズラステラ。この国を治めている王である。若くしてこの国の王となり、彼より歳上の魔皇の割合は多い。聡明であり、普遍的なことをただひたすら遂行するところに民から信頼の集まる要因があるようである。だが常に目が死んでいるかのような虚無に満ち溢れているため、感情があるのかどうか、なにを考えているのかどうかすら汲み取れない。
少しの沈黙が流れる。
「確かに第一級死刑囚ではまともに任を遂行出来るとは私も思っていない。純粋な戦力では他に引けを取らないが、心が卑し過ぎる。彼らはこの国に憎しみを持っている者も多いが故、なにをしでかすか分からない。そういったことが言いたいのだろう?なあ?レイマン。」
レイマン。幻影魔法の一族、リュミエール家当主であり、七魔皇の1人。何が正解だと...と騒いでいた初老の人物である。
「は。仰せの通りで御座います、陛下。」
「...第一級死刑囚は救済の余地が無いからこそ、憎きこの国に一矢報いてやろうという感情が先走り、裏切る可能性はある。となれば第六級囚はどうだろうか。最も罰の緩い彼らなら、"今回無事に任を遂行した暁には君たちを釈放しよう。そうした後、更に褒美として住居を分け与えよう"等言っておけば、救いの余地がある、まだ助かるんだと健気に任務を遂行してくれるはずだ。そうした後にこちらで抹殺すれば良いと思うのだが、どうだろうか。」
一瞬、時が止まったかと思われた。
これが彼が何を考えているか分からない、感情などあるのだろうかと言われる所以である。一国の王としてどうなのだろうかという、一魔族を純粋に裏切るという選択。それを提言していいか分からなかった魔皇達からすれば、驚きしか無いといった様子だ。いくら魔王といえど、騙しや裏切りなどといった裏の提案を表であるこの会議に持ってきたことは過去1度と無かった。宰相とそういった話をしているだろうとは薄々噂されてはいたが、今この場にこうしてそういった提案を持ってくること自体、聡明な彼自身でさえ少しは焦っているという表明なのだろう。それ程までにこの問題は危険な、それでいて迅速に解決せざるを得ない、敏感な問題なのだ。
この後も会議は1時間程続いた。
その後帰宅した魔皇達はそれぞれの不安を、仲のいい者に打ち明けたり、現実逃避の為の鍛錬に明け暮れていた。魔皇とはいえ、ただの魔族である。魔皇という立場を借りただけの一般魔族と言ってしまえば、本当にそれまでなのである。まだ魔皇という立場に着いて間もない彼らにとっては、今この状況はまさに地獄と言っても過言では無いのであった......
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「生...れ..したよ...!元......子です..!」
「本...か...!!!おお...!!!!!」
「あ..た.....私..ちの....よ..!」
「あな.....私が絶....る...!誰に..触..せ...!」
「....だ..!!...も....前.........う!」
「....にも....い...に...1....年..に...覚め...うに.....愛.....わ......だった..ど....嬉..っ........は見....っ....る..ね...」
...何か夢のような...思い出のような...そんなものを見ていた気がする。
「ッッつ....ヤバっ...俺...寝てた...?あれ、なんで俺外で.......!!!!」
ラヴィの目の前、そこには倒れたヘルメとサーラの姿があった。
読んで頂きありがとうございます。繰り返しにはなりますが、更新は全くもって不定期ですので、ご期待なさらないようにお願い致します。
唐突な村の異変に驚くラヴィだったが、思い出す間もなく....