たまにやけにドッチボールが強い人っているよね
「さすが私立・・・」
球技大会当日。体育館に所狭しと並べられたスポットクーラー。集合が掛かるまで涼しいところにいたい生徒たちの場所の取り合いになっていた。
サッカーのみなさんはこの後外に移動になる。ちょっと同情する。なんでかって今日は外がカンカン照りだからだ。
「まさかのA組のドッチボールがシード枠だなんてね」
「ね、まだ出番は先だね」
各種目2クラスだけは事前のくじ引きでシード枠をゲットできる。本当にたまたまドッチボールがシード枠になったため出番は当分先だ。
ゆうはバスケのチームメイトとウォーミングアップに行っている。
スポーツ科がある学校だからなのか割とみんな真剣に取り組もうとしているからすごい。
ドッチボールが種目としてあってよかった。あんなに真剣なみんなの足を引っ張るところだった。ドッチボールは若干運なところもあるから少し気が楽だ。
「ドッチボールの1回戦目はB組対F組です」
「お、B組だって」
「新太くん出るんじゃない?」
馨くんと一緒にコートまで向かう。
「絶対優勝するぞー!!」
「おー!!」
B組の生徒は輪になっている。その真ん中にいたのは新太くんだった。
「新太は相変わらずだね・・・」
「みんなの中心になってすごいね」
ギャラリーの端っこで馨くんと並んで座る。
「どっちが勝つかなぁ」
「どうしてもこう言うのはスポーツ科が有利なんじゃない?」
そうだよね。相手はみんなスポーツ万能集団だもんね。
そう思っていた私たちの新太くんは見事に裏切ってくれたのだ。
「ハルカちゃーん!見ててくれた?」
「あ、う、うん」
試合はB組の勝利で終わった。見学していた私たちに気がついた新太くんが笑顔で寄ってくるが私はなんだかうまく笑えなかった。
次に新太くんたちB組と当たるのは私たちA組だったからだ。
「新太ってゴリラだったの?」
「なんだよ馨!」
新太くんから繰り出される真っ直ぐな豪速球にあのスポーツ科のみなさんがどんどん当たっていった。
当たった所の皮膚がボールの形に赤くなっており、その威力が伺えた。
「スポーツ科って体がでかいから当てやすかった」
「サイコパスかよ」
「ちゃんと女子は外したもーんって、ちょっとハルカちゃん引いてる!?」
「いや、引いてはないけど、次当たるんだぁと思ったらちょっとね」
「めっちゃ引いてるじゃん」
「かっこいいって言われると思ってたのに・・・!」
話している間にあっという間にC組対D組のドッチボールが終わってしまった。
「やだ、もう出番になっちゃった」
「やるからには負けないから!」
「新太がそれ言うと怖いって・・・」
若干腰が重いけど、私たちはコートに向かったのだった。
「ではA組対B組のドッチボールを始めます」
ああ、ついに始まってしまった。
「ハルカちゃん!ボールをよく見てね!」
新太くんは今回外野のようで、すぐ横から私たちに話しかける。
「お、おっす!」
「新太はどういう立場なの・・・」
「きゃー!」
「中西くんかっこいいー!」
少し離れたところからゆうを応援する声が聞こえる。
タイミング悪くバスケの試合と被ってしまったのか。ギリギリ見に行けるかな・・・。
いや、まずはこの勝負をなんとか乗り切らないと!
もうドッチボールの試合が始まっていると言うのに余計なことを考えてしまった。
「ハルカちゃん!!」
馨くんの声で我に帰り視線を前に向ける。
真っ直ぐ飛んでくるボールに気が付かず、もう避けきれないと思うような距離にボールが迫っていた。
これは当たるしかない。私せめて顔くらいは守ろうと咄嗟に腕で顔の前をガードし目を瞑った。
「危ないっ!!」
バシン、とすぐ近くでボールが当たる音がしたけれど、私はなんの衝撃も感じなかった。
「何やってんだよ新太!」
「え・・・」
目を開けると外野の新太くんが腕を出し私に向かっていたボールを弾いたようだった。
「お前対戦相手守ってどうすんだよ!」
「わー!俺何やってんだー!みんな悪りぃノーカンで!!先生だめ?」
「まぁ首から上に当たったら元々無効だからな。ほら、試合再開!」
「な、なんかごめん、それとありがとう新太くん」
「我慢できなくて、つい。俺の方こそ変に目立たしちゃってごめんね」
「いや、本当新太はどういう立場なの・・・」
まさか敵を庇うとは、新太くんの友情に少し感動しつつも試合は再開。
やっぱりB組のみんなは強くって、どんどん仲間が抜けていった。
突然だけど質問です。
みんなドッチボールで嫌なことって何?ボールに当たること?
「ハルカちゃん、ごめんね。あとは頑張って」
「か、馨くん行かないでー!!」
一番なりたくなかった最後の1人になってしまった私は、妙に広く感じるコートでみんなの視線を集めながら右往左往する羽目になった。
大した威力のない私のボールは、あの俊敏な動きをするB組の人たちを当てることはできず、毎回ものすごいボールで帰ってくる。
やばい、もう当たって楽になりたい。
お願いします。優しめのボールをください。外野に回っているA組のみんなも『もういいよ、B組相手によく頑張ったよ』っていう表情をしている気がするもん。
ボールを目で追っていると、ついに新太くんの手にボールが回ってしまった。
「新太ー!いけー!ラストだー!」
「お前のスーパーボールを見せてやれ!」
周りのみんなに盛り上げられている新太くん。
あ、新太くんだけは・・・!
私は必死の表情で新太くんの顔を見る。目があった新太くんはビクッと体を震わせボールを投げようと掲げたまま固まってしまった。
視線を外す新太くん。そうだよね。今君は敵なんだ。もういいよ、当ててくれ。
せめてあんまり痛くないように靴を狙って欲しい。
私は諦めて、コートで棒立ちになった。
「は、ハルカちゃんごめん!!」
新太くんはボールを投げた。
「こ、怖かったーー!!!!」
「ハルカちゃん頑張った」
「中川さんお疲れ様!1人で頑張ったね!」
試合終了後、クラスメイトたちが集まって私を労ってくれた。本当に終わったんだ。よかった。
「俺は、俺は・・・ハルカちゃんにボールを・・・!」
「きゃー殺人ボール投げ男が来た」
近づいてきた新太くんから私を隠すように馨くんが前に立ちはだかった。
「俺だって、俺だってやりたくなかったんだ!」
「もう新太がハルカちゃんにボールを当てた、その事実は変わらないんでお引き取りくださーい」
「新太くん優しく投げてくれたから大丈夫だよ。緊張しすぎて疲れたけど」
新太くんの必死な声が聞こえて、私は馨くんの後ろから顔を出して新太くんの顔を見た。
「ハルカちゃーーん!許してーー!!」
「わ!」
「近づくな!」
馨くんに首根っこを掴まれて試合を控えているB組のみんなのところへ強制送還されていた。
新太くんはちょっと涙ぐんでいた。ドッチボールなのに大袈裟だな。
「バスケA組勝ったって!次D組とらしいよ!」
ゆう、勝ったんだ。次の試合は見にいけそうだ。ゆうがバスケをする姿を見るのは初めてだ。
少しワクワクする。
「ちょっと休んだらゆうの応援行こうか」
「うん!」
遠くで俺の活躍も応援して!!と新太くんの声が聞こえた。
・・・新太くんは耳が良すぎるみたい。




