図書室で君と
「なんかやっと平和って感じだなぁ」
「そうなの?」
「うん、特に悩みもなくて」
久々の図書委員だ。今年も馨くんとだから本当に気が楽。
「あの後輩の子はどうなったの?」
「ゆうに振られて吹っ切れたのか、もう連絡こないよ」
「悩みが減ってよかったね」
梢ちゃんからはめっきり連絡は来なくなった。
あれだけ毎日連絡が来ていたのだ。たとえゆうについての質問だったとしてもやっぱりこう連絡が来ないとなると少し寂しい気もする、なんて思うのは流石に私のわがままか。
「わ」
「何よ」
ドアを開けて入ってきたのは、結衣ちゃんだった。
結衣ちゃんはたくさんの参考書を持って奥の自習スペースへ向かった。
「意外だな。里中さんってこういう所くるんだ」
「だよね」
今までだったら絶対来てなかったのに。
返却図書の整理を馨くんは譲ってくれなくて、私は1人カウンターでぼーっと結衣ちゃんを眺めていた。
真剣な眼差しで参考書を開いている。
時々頭を抱えては、また参考書に向き合うことを繰り返している。
「あ」
ぱ、と目があってしまった。
結衣ちゃんは立ち上がると歩き出した。多分私の方へ。見るんじゃない、と言いに来たんだろう。素直に謝ろう。
「ねぇ」
「ごめん」
「・・・何謝ってんのよ。ねぇ、この問題がわかんないんだけど、分かる?」
「え?」
「分かんない?」
私は結衣ちゃんの持ってきた『高校英語ドリルⅡ』なるものを見る。
長文読解かぁ。うーん、環境保護についてのトムの1番の主張は何か。
「なんで先に問題を読むの?」
「え?長文読解って時間がかかるから、先に問題を読んでおくとどの内容に注目して読めばいいのかわかるでしょ?」
「なるほどね・・・」
「結衣ちゃんすごいね。放課後残って勉強だなんて」
自然と言葉が出た。もちろん結衣ちゃんにやられたことを丸っと許したわけではないけど、前よりも普通に話せている気がする。
「なりたいものができたのよ」
「えっ」
なりたいもの?将来の夢ってこと?
「何やってるの!?」
馨くんが焦ったような表情で戻ってきた。
私と結衣ちゃんが2人で話してるのに驚いたんだろうな。
「分からない所を教えてもらっただけよ」
私も頷くと馨くんは少し安心したみたいだった。
「馨くんの方が英語得意なんだよ」
「そ。ありがと」
「あ、いえいえ」
こんなに素直に結衣ちゃんがお礼を言ってくれるとは思ってなかったから、ろくな返事ができなかった。
「また絡まれてんのかと思っちゃった」
「もう大丈夫だよ。結衣ちゃんは」
心配そうに私を見ていた馨くんにそう言った。
結局結衣ちゃんは図書室を閉める時間まで勉強をしていた。
***
「今日はゆういないの?」
「うん、今日は用事があるって」
「じゃあ僕と2人きりだ。嬉しい」
さっきから2人でいたでしょ、と言い返す言葉は恥ずかしさから飲み込んだ。
「結衣ちゃん英語頑張ってたね。テスト近いし私も勉強しなきゃ」
「どうせ新太に泣きつかれるだろうから、また一緒に勉強しよう」
新太くんが馨くんに勉強教えて欲しいって頭を下げている姿が目に浮かぶ。
「ハルカちゃんは今年の夏休みはどうするの?」
「今年はね、2週間くらいベトナムにいる予定」
「親御さんと一緒だから安心だね」
そうなのだ。来年は受験も控えていていけないから、今年の夏休みはベトナムで過ごすことにした。
両親から持ってきて欲しいものリストが早々に送られてきているけど、これ本当に持っていけるのかな?
とりあえずテストが終わったらパスポートを準備しなきゃ。
「みんなにお土産買ってくるね」
「あはは、ありがとう」
「馨くんは夏休みどうするの?」
「僕も家族旅行に行くんだけど、まだ五右衛門も泊まれるホテルを探し中」
五右衛門くんのあのモフモフな体に顔を埋めたい。
「五右衛門くんまた会いたいなぁ」
「いつでも会いにきていいよ」
「え、本当?」
「うん。五右衛門も喜ぶよ。僕も喜ぶ」
「え?」
「だって学校以外にハルカちゃんに会えるんだもん。嬉しいよ」
「も、もう、馨くんってば・・・」
ドキッとすることを馨くんは自然に言ってしまうからすごい。
馨くんってみんなにもこんな感じなのかな?
邪念を消すように、私は五右衛門くんのことを考えることに集中することにした。
***
馨くんは部屋の前まで送ってくれた。
私はシャワーを浴びながら結衣ちゃんのことを考えていた。
なりたいものが見つかったって、すごいな。
ぼんやりしていたらシャンプーを2回もしてしまった。
みんなは将来何になるんだろう。
私は・・・?




