馨くんはどこまで予測していたのか
どうしよう、みんな変に思ったんじゃないかな。
食事の時にゆうに変なこと言ってごめんって謝りたかったのに、それができないままもっと変なことになってしまったように思う。
私はソワソワと自販機の前を行ったり来たりしている。
「ハルカちゃん!」
「馨くん・・・」
「どこ行ったのかと思ったら、こんな所にいたんだね」
馨くんの目を見て私は何も言えなくなってしまった。きっと全部お見通しなんだろう。
「それで、今度はゆうと何があったの?」
ぎくり、やっぱりね。
何も言えないでいる私にじわりじわりと近づいてくる馨くん。
「か、馨くん」
馨くんは両手を伸ばして私の両手と繋いだ。
「僕、ハルカちゃんが悲しいの嫌なんだ。さっき僕が言った言葉に傷ついた?」
ぎくり、また胸が震える。
さっき言ってたことって梢ちゃんがゆうの彼女かって事?
馨くんは私の手を引いて近くの椅子に座らせ、馨くんは私の隣に座った。
「傷ついたと言いますか・・・なんかよく分かんないけど、聴いていられなくなっちゃって」
正面から顔を見合わせてないからか、割と簡単に本音が言えた。
「ゆうとあの1年生のことが気になるのってどうして?」
「この間までずっと一緒にいたのに、急に一緒に居なくなって、なのに梢ちゃんのいない時は一緒にいたがるし。ゆうのことがよく分からなくて・・・」
「それってしっ、いや、なんでもない」
私の言葉に馨くんは少し驚いた様子で何かを言いかけたけど、口をつぐんでしまった。
「ハルカちゃんはどうしたら僕のこと見てくれる?」
「え?」
私は馨くんの顔を改めて見る。あの綺麗な瞳がゆらゆらと揺らめいている。
「私、馨くんのこと見てるよ」
「物理的にっていうか、そうじゃなくて」
馨くんは少しの間黙ると、私の腕をもう一度掴んで横に引き寄せた。
気がつくと私の顔のすぐ横に馨くんの顔があって。
抱きしめられていることに気づく頃には心臓がバクバクし出して顔を上げられなかった。
「どうしたら、僕のことを意識してくれるの?ってこと」
「い、意識って・・・」
「ゆうのことばっかり気にしてるの、悔しいな」
こんな時は一体どうしたら・・・!?
「わっ!!」
急に体が後ろへ倒れるが暖かい何かに寄りかかるような姿勢になった。
「馨、離れろ」
「遅かったね」
この声は、ゆうだ。上を見上げると少し息を切らしているゆうと目があった。
「ゆう嫉妬?」
「悪いか。離れろ」
「ハルカちゃん、ゆう嫉妬してるって。嫉妬だよ嫉妬」
やけに嫉妬を強調している馨くんは笑いながら立ち上がる。
「ゆう、とっとと仲直りしてよね」
あとはお二人で、なんて言って馨くんは行ってしまった。
***
「なんで馨に抱きしめられてたの」
「わ、分かりません」
そう言うゆうも後ろから私のことを抱きしめている。今日は一体なんだって言うんだ。
そして馨くん、こうなるって分かっててあんなことしたの!?
「さっき、なんで俺のこと避けたの?」
「避けてないよ」
「いや、避けてた。ハルカは何かあるとすぐに避けるの直した方がいい。傷つく」
顔が見えないからだろうか。
なんだかゆうの言い分が勝手な気がして言い返してしまう。
「ゆうの方こそ、私のこと避けてた」
「避けてない」
「梢ちゃんと一緒にいて、私とは一緒にいなかった」
なのに今になって急に一緒にいるとか言うし、と続ける私の言葉を言い返さずに聞いているゆう。
ってちょっと待って、なんだか震えている気がする。
私は身を捩って振り向くとゆうは肩を震わせながら笑うのを我慢しているようだった。
というか我慢はできていない。顔はニヤニヤしている。
「何笑ってるの?」
「いや、ハルカが可愛くて」
「何が!」
「梢とばっかりいるから、嫉妬してたんだな」
「違う!」
嫉妬嫉妬嫉妬。そんな簡単な言葉で片付けないでほしい。
私はゆうを胸を押し、なんとか離れた。
『素直にハルカの気持ちを言ったり、聞きたいこと聞いていいんじゃないの?』
ミヤコの言葉が頭をよぎる。
そうだよ、そもそも食事の前に変なこと言ってごめんねって謝りたかったんじゃん!私!
「一緒に居なかったり、一緒にいたいって言ってきたり、ゆうは勝手すぎる」
「うん。ごめん。勝手だった」
「梢ちゃんとその、付き合ってるの?」
「ばか。そんなことある訳ない」
別に付き合ってないんだ。なんだ。ってなんだってなんだ。別に付き合ってなくても好きなのかもしれないじゃん。だから一緒にいるのかもしれないし。
「そ、そのゆうは梢ちゃんのこと・・・」
ダメだ、言えない。聞けない。って言うか聞いて私はどうするの?ゆうが梢ちゃんのことが好きだったら?あらぬ誤解が生まれないように身を引く?元々別に身が入っていた訳じゃないけど。
「好きでもなんでもない。ハルカ、俺が梢のこと好きなんじゃないかって思ったの?」
「わ」
「ダメ。無理。ハルカずるい」
ゆうはゆっくりと私に近づきまた私を抱きしめた。今度は正面から。
しばらくぎゅっと抱きしめられる。ちょっと苦しい。体が離れた頃には若干酸欠になっているのか胸がドキドキとしていた。
「食事の前、変なこと言ってごめんね」
やっとの思いで謝罪の言葉を口に出す。
「ううん。変なことじゃないよ。今全部繋がったから」
ゆうは微笑んでいた。
なんだか余裕さえ感じるその表情に少しイライラしてしまう。私はこんなにもぐちゃぐちゃなのに。
「梢ばっかりといてごめん。でも俺、ハルカが一番だよ」
「なんかやだ」
「え」
「なんか浮気した人みたい。別に付き合ってる訳じゃないけど」
「それは色々と心外」
「いてっ」
ゆうに頭を小突かれた。
「同じ道通るの怖いから送って欲しいって言うから送ってた。でも、ハルカだって同じだよね。考えなくてもわかるはずなのに。別に梢は俺じゃなくてもいいのに。ごめん」
「別に私は平気だったよ。それに、梢ちゃんと一緒にいないでっていう話じゃないんだけど」
「俺がハルカと一緒に居れないのが無理なの」
なんでだろう。あんなにモヤモヤ嫌な気持ちでいっぱいだったのに。
ぐう。
空気の読めない私のお腹が鳴っている。やめて。カレーを食べなかった自分を呪う。
「俺、夜食用のカップラーメン持ってるよ」
「ください」
もうゆうに感じていたモヤモヤは気にならなくなっていた。




