カレーの味も分からないまま
「あ、ハルカちゃん!」
講堂に入ると、新太くんがいた。こっちにおいでと手招きしてくれている。
私はまだ胸がざわざわとしていた。
なんでゆうにあんなこと言っちゃったんだろう。
「あれ、ハルカちゃんどうかした?」
「へ?」
「いや、なんか元気なさそうだなって。結構難しい問題も多いから疲れるよね。チャチャッとやってご飯までの自由時間ゲットしよ!」
「うん、やっちゃおう!」
ゆうのことは置いておこう。まずは残り8ページを片付ける。
それで、ご飯の前に謝ろう。
謝った後、素直に聞くんだ。最近どうして梢ちゃんとばっかりいるの?って。
「とりあえず終わり!」
「俺はあと2ページ。ごめんね、待たせちゃう」
「大丈夫。私明日の分少し手をつけちゃおうと思う」
そうすれば明日は時間内に終われるかもしれない。食事開始の時間まであと30分はある。
その他の生徒も終わった人が多いようで、残っている人数は大分少なくなってきた。
「よし!終わった〜!」
新太くんが机に突っ伏した。
「疲れた〜。俺頑張った」
「うんうん、頑張った頑張った」
机に突っ伏したまま話す新太くんの頭を私は何も考えずに撫でていた。いや、犬みたいだなぁって考えてはいたか。
急に新太くんが話さなくなり、なんなら動かなくなり、息もしてないんじゃないかと思って私は撫でるのをやめて肩を叩いた。
「え、新太くん大丈夫?息してる?」
息を止めていたからだろう、唯一見える耳は真っ赤になっていた。
「ハルカちゃん、俺をどうしたいの?」
ちらっと腕の間から覗く新太くんの目は何故か潤んでいた。
「え、ごめんね勝手に触っちゃったから嫌だったね」
「嫌じゃない。嫌じゃないのよ。ドキドキで俺の体がもたないだけ。もっとやって欲しいけど、もう移動しないとだ」
食事まであと10分もない。急いで荷物をまとめて講堂を出た。
「今日のメニューなんだろうね!わっ!!」
急に新太くんが立ち止まるからぶつかってしまった。思いっきり顔から。
「ごめんごめん」
慌てて新太くんはぶつけた私の鼻を撫でてくれた。鼻の脂つかないかな?っていうか下から撫でると豚鼻みたいになっちゃうから!新太くん!
「急にどうしたの?」
「さっきみたいなこと、俺以外にしちゃだめだよ」
「えっ?」
「耐えられたのは俺だから!」
「どういうこと?」
「行こ!」
新太くんは私の手を掴み小走りで食堂に向かった。新太くんの手はそれはそれはあったかかった。
***
ハルカちゃんは本当に無意識にああいうことするからダメだ。本当にダメ。
俺の頭を優しく撫でてくれたあの感触が忘れられない。
胸の動悸を誤魔化すように、小走りで食堂に向かう。
勢いで手を繋いでしまった。耐えられてないじゃん俺、下心丸出しじゃん。
「よかった!間に合ったからゆっくり食べられるね!」
「だね」
「いつまで手を繋いでんの」
「げっ馨・・・」
いつの間にか後ろに馨がいた。馨ってハルカちゃんのこと監視してるんじゃないかと思うくらいいいタイミングで現れる。
「遅れそうだったから引っ張って走ってくれたんだよね、新太くん」
「あっ、あ〜そういうことで大丈夫です・・・」
ハルカちゃんが眩しい笑顔が向けてきて、この俺の下心は絶対にバレないようにしないとと悟った。
俺を置いてあっという間に食事をもらいに行っているハルカちゃんと馨を追いかけるように、俺もトレーをとって列に並んだ。
「やっぱりカレーかぁ」
「大体こういう時ってカレー絶対出るよね」
「去年の夏にハルカちゃんと一緒に作ったカレーが一番おいしかったよ」
「あれ仕上げたの俺な」
ゆうも到着しており、みんなでカレーを食べる。
「飯食べながらゆうと話すの久しぶりな感じするな」
最近ゆうと一緒に食べることが少なかったから、なんだかちょっと不思議な気持ちだ。
「最近いつもあの1年生と一緒にいるもんね。何、彼女?」
馨がそう言うと、ガタッ!と物音がした。横に座っていたハルカちゃんが急に立ち上がった音だった。
「大変、私用事あるんだった!ご、ごめんもう行くね!」
「え、カレーまだすごい残ってるけど」
「なんだかお腹いっぱいで、こんなに貰うんじゃなかったなぁ〜じゃあ行くね」
「ハルカ」
ゆうがハルカちゃんを呼び止めるけど、ハルカちゃんは返事をしないまま食事を下げて食堂を出て行ってしまった。
急に挙動不審な感じになったハルカちゃん。よっぽど大事な用事なのか?
はぁ、とゆうのため息が聞こえた。
「ゆう、なんかハルカちゃんにしたんでしょ」
「えっ」
急に馨がそう言うもんだから俺が驚いてしまった。
「なんでゆうなの?」
「はぁ、新太が鈍感すぎるの忘れてた」
馨がカレーを頬張る。
「どうでもいいんだけど、ハルカちゃんを傷つけるのだけはやめてよね」
「傷つける?」
ゆうはハッとした表情で馨を見る。
「なんかハルカちゃん傷ついてた表情してたよ。分かんなかった?あぁ、最近一緒にいなかったからハルカちゃんのことなんてもう分かんなかったか」
いつもならゆうはすぐに言い返すのに、じっと黙っているだけだった。
馨はカレーを食べ終わり片付けのために立ち上がった。
「じゃあまたお風呂でね」
そう言うと馨は食堂を出て行った。
え、この話に付いていけてない俺が残るの??
ゆうになんて言おう、俺は考えるばっかりで全然カレーが進まなかった。
ゆうはそんな俺にはお構いなしにどんどん食べ進め、すぐに食堂を出て行ったのだ。
え、ちょ、誰も俺のこと気にかけてくれないんですけどー!




