一難去ってまた一難って本当かも
「ゆう先輩いますかー?」
「おーい中西!またあの子来てるぞー」
それから頻繁にあの子は私の教室に来るようになった。
私はあの子の名前すら知らない。
「しょうがねぇな」
ゆうは満更でもないようで、必ずその子のところへ行くのだ。
「毎回毎回、一体なんの用事なんだろうね」
馨くんが私に言う。
「ま、僕に取っては邪魔者がいないから嬉しいけど。ハルカちゃん一緒にご飯行こう」
馨くんはそういうと私の背中を押して教室を出た。
食堂に向かうともう新太くんが待っていた。
「新太はクラスメイトと一緒に食べた方がいいんじゃない?」
「なんでだよ!」
「ちぇ、せっかくハルカちゃんと2人っきりだと思ったのに」
私たちは並んでトレーを受け取る。今日はA定食にした。サバ味噌だ。
「あれ?あそこにいるのゆうじゃね?」
新太くんが指を刺す方向を見るとゆうがいた。
「ゆ・・・!」
ゆうー!と呼ぼうと思ったがやめた。
「あいつ女の子といるじゃん!」
「だね・・・」
ゆうはあの子と一緒に食堂に来たのだ。
「なぁ俺ちょっと話しかけにいってこようかな」
新太くんは少し面白がっているようだった。
冷やかしに行く気満々なのが伝わってくる。
「勝手にすれば」
馨くんはそう言うと水を一口飲んだ。
新太くんが2人のところへ向かって行くのを私は目で追ってしまったのだろう。
「気になる?」
「あ、ううん。いや、その」
馨くんに急に声をかけられて、しどろもどろになってしまった。
「僕と2人きりじゃ嫌?」
「ううん!!それは、違う!」
僕は2人っきりなのが嬉しいんだけど、と上目遣いで馨くんが言った。うう、あざといって感じですか?
「1年の桐原梢ちゃんって言うんだって」
新太くんが戻って来て大きな口でハンバーグを頬張る。
ちらり、とゆうの方を見るとその梢ちゃんとやらと一緒に向かい合って食事をしていた。
「この間の件からゆうのことを頼りにしてるんだって。今日はお礼でランチ奢るってことだったらしいよ」
結局ゆうは自分で払ってるみたいだけどね。
私は巻き込まれただけだったけど、梢ちゃんはあのダウンおじさんに付き纏われてたんだもんね。
寮に住んでいるみたいだし、そりゃ心細いよね・・・。
「なんか今日は一緒に帰るらしい」
「ゲホッゴホッ!」
「は、ハルカちゃん大丈夫!?」
むせ込んでしまって慌てて馨くんが背中を摩ってくれる。
それって私も一緒に帰るってこと?何話したらいいんだろう。
「私、何話そう・・・」
「確かに戸惑うよね、俺も一緒に帰るよ!もうあの子と顔見知りみたいなもんだし」
「新太は全校生徒と顔見知りみたいなものじゃない?」
新太くんなら簡単に梢ちゃんと仲良くなれそうだ。
私も同じ危機を乗り越えた仲間として、そして先輩として、少しでも梢ちゃんと仲良くなれたらいいなぁ。
***
放課後、少しだけワクワクとドキドキしながら帰る準備をしていた。
「ゆう先輩」
梢ちゃんが教室にやってきた。
「ゆう、今日一緒に帰るんだよね?もう梢ちゃん来たよ」
早く行こう、とカバンを持って立ち上がった。
ゆうも準備が終わったようで私の後を追うように梢ちゃんの元へ向かう。
「え、あの・・・」
梢ちゃんは急に私が出て来たから驚いたのだろう。少しもじもじしているようだった。
「あ、ごめん。私中川ハルカ。よろしくね」
そういえば名乗ってなかったな、と思って急いで名乗る。一応笑顔付き。
梢ちゃんは小さくお辞儀をする。視線があっちこっちへ彷徨っている。何か言いたいことでもあるのかな?
「どうした?行かないの?」
ゆうが後ろから声をかける。
「あ、ゆう先輩!」
ゆうを見つけた梢ちゃんはパッと顔をあげ、視線はゆうに一直線だ。
「あの、その」
「どうした?」
チラチラと私を見る梢ちゃん。な、何かしら?
「あの、実はゆう先輩にだけ話したいことがあって、それで、申し訳ないんですけど・・・」
その先は最後まで言われなくても察する力くらいある。
でもそんなことを言うんだったら最後まで自分で言ってほしいなんて、ちょっと意地悪かな?と思いつつ梢ちゃんの言葉を待つけどそれ以上は言えないようで、梢ちゃんはゆうにちらりと視線を送っていた。
「ハルカ、悪いけど話終わるまで待てる?それか、急いでたら馨か新太と帰って。1人では帰るなよ」
「私、ゆう先輩にしか頼れなくって。ごめんなさい」
話が終わるまで待っているとして、その後梢ちゃんとゆうと一緒に帰るなんてことは私にはできない。そんなメンタル強くない。
別に大したことじゃない。困っている後輩を助けているだけ。それだけ。
最近一緒に帰っていたから、今日も一緒だと思ってた。
「い、いや、私は大丈夫!うん、じゃあまたね!」
私は笑顔で2人に手を振って、くるりと背を向けた。
なーんだ、緊張して損した。ワクワクして損した。
じゃあ行くか梢、なんて梢ちゃんを呼び捨てしているゆうの声が聞こえるとなんだか居た堪れなくなって。
私は急いで玄関に向かうのだった。




