横田くんはミヤコが好き
次の日、私は念の為あの青いウィンドブレーカーを着た男について先生に報告した。
他の生徒からも何件か同じような報告があったらしい。
顔とか覚えられるかもしれないから、無防備に相手みるなよ、なんて先生に言われて少しゾッとしてしまった。
「ハルカ、昨日連絡ありがとう」
授業の合間の休み時間にミヤコが教室まで来た。
部活があってどうしても遅くなってしまうミヤコは同じ寮に住んでいる子とまとまって帰っているらしい。1人じゃないなら安心した。
「絶対横田がくっついてくるからある意味安心だよ。初めて横田が頼もしいね、ってみんなで言ってんの」
スポーツ科はクラス替えをしないから、ミヤコはまた横田くんと同じクラスだ。
男の子が一緒なら少しは不審者も手が出しづらいだろう。早く捕まったらいいな。
「ハルカも本当に気をつけなさいね」
「うん、気をつける」
じゃあ、また後でねとミヤコは戻っていった。サラサラとポニーテールにしている髪の毛が揺れる。いい匂いだ。
美人なミヤコは本当に不審者に狙われそうな気がして心配だ。
***
「あー、遅くなっちゃったー」
たまたま司書の先生に会った私は、当番ではなかったけど貸出図書のカバーがけを手伝うことになってしまった。
案外時間がかかってしまい、もう運動部もほとんどいない。
作業開始前に馨くんとゆうには先に帰ってと簡単なメールを送っておいた。司書の先生が一緒に帰ってくれることになったからだ。
「中川さん、お待たせ」
「先生わざわざありがとうございます」
先生と並んで一緒に帰る。外はすっかり暗かった。
「春はなぜだか不審者が増えるのよね。露出狂とか。暖かくなるからかしらね」
私は先生にも青いウィンドブレーカーを着た怪しい男を見たことを伝えた。
急に先生が立ち止まった。驚いて振り向くと先生は横を−ミヤコの寮の方向を見ていた。
「中川さん、例えばああいうの?」
左側からフードを被った男が走ってきた。そう、青いウィンドブレーカー。あの青いウィンドブレーカーだ!
私は頷きながら先生にしがみつく。どうしよう早く寮に入りたいのに体が動かない。
男のスピードは早く、もう私たちのすぐそこだ。
先生は私の顔が見られないように、私を隠すように前に立ってくれている。
迫ってきていた足音が急に止まった。どうしよう、殴られたりする?それとも誘拐?
こっちは2人だけど、司書の先生も線の細い女性だし負けちゃうかもしれない。
私は恐ろしくて目を瞑った。
「あれ?司書の先生?ちわっす」
「え」
なんだか知っている声な気がしてこっそりと先生の背中から顔を覗かせた。
「え、横田くん!?」
青いウィンドブレーカーを着た横田くんが立っていた。
「あれ?中川さん?」
私は力が抜けてしまいヘナヘナと先生に寄りかかった。慌てて先生が私の体を支えてくれた。
***
青いウィンドブレーカーの男は横田くんだった。
毎日ロードワークのため寮の周りを走り、ついでにミヤコに会えないかとミヤコの寮の前で休憩がてらウロウロとしていたらしい。なんて紛らわしいの・・・。
「私たちの怯えた時間を返して欲しいわよね、中川さん」
先生の言葉に私は首がもげそうなくらい頷いた。
「たまたま横田くんだったってオチだけど、これからも不審者には気をつけて過ごすのよ」
ひとまず青いウィンドブレーカーの男は横田くんだったと学校には報告しておくわ、と先生は帰っていった。
「横田くんなんかごめん」
「いや、俺もごめん。フードかぶって走るとなんかプロっぽくてかっこいいかなとか思ってて・・・」
寮の周りをウロウロするのは絶対にやめたほうがいい、私以外の人にも不審者だと思われていることを改めて伝えた。
横田くんは次からはフードは被らない、とか言っていたけどそこじゃない。
嫌な汗をかいて、私は早くシャワーを浴びたい。
横田くんはウィンドブレーカーを脱いで手に持ち、私が寮に入るのを見送ってくれた。
シャワーの後、私は一連の起こったことについてみんなにメールした。
ミヤコから速攻で電話が来た。
あの横田のばか野郎が、とミヤコはすごく怒っていて、明日横田くんはどうなっちゃうのだろうと、私は横田くんの心配をしてしまうのだった。




